100日の四季
日本の客船が世界一周クルーズに出るのは、毎年決まって、桜が咲き誇る頃である。強烈な「日本」を眼に入れて出航する。大抵は横浜港で関東以北からの客が乗りこみ、神戸港で関西からの客が乗船する。その港にやってくる旅行客は、空港で見かける人たちとは様子が違う。
100日かけて旅をするというのに、身の回りの品を入れた小さなスーツケースかボストンバッグといういでたちなのである。
港に横付けするタクシーからいくつもの大型のスーツケースと共に降り立つ人もいるが、それは出港する横浜、神戸といった港に近いところからの参加者なのだ。地方からの乗船客ともなると、そうはいかない。指定の宅配便会社を経由して、スーツケースや十数個の段ボールをあらかじめ船内に送り届け、身軽な姿で港に到着するわけだ。僕たちも前もって段ボール箱を送り出した組だ。 そしてイミグレを通るときの我々は、まだ、冬の衣装なのだが、桜の日本を離れれば、すぐにも強い日射しの夏が待っている。そして、西へ西へと太陽を追いかけながら船旅を続ける。それは100日の間に四季を体験する旅でもある。 
準備をどうすればいいのか、初めてのクルーズ説明会で親しくさせていただいた「夢航海」の著者、東康生カメラマンにお訊きした。 「居間に段ボールを並べておいて、気がついたときに放り込んでおくのですよ、そこで確認しながら、入れ替えたりする。量も把握できるし、色味も眼に入る。結局はあれやこれや多すぎて、引き算しますがね」 それを実行した。徐々に増えていくのを眺めていると、乗船が 楽しみになることは確かだった。
通常は旅行の申し込みは1年も前からできるのだが、出発は4月初旬だからと、僕の場合は初めてクルーズに出た年でも、荷物の準備を始める気になったのは11月を過ぎてからだった。 二人での旅行ですから、バランスを考えてくださいと妻に言われ、仕方なくデパートに出向く。半袖のゴルフウエアなどを買い足そうとしても、季節のずれた時期に思うようなものは手に入らない。夏物だけは要注意である。

船会社から渡されている冊子には寄港地の平均気温が出ている。寒い地方では悪天候を想定した。それに加えて船のデッキでの風を考える。冬と夏の衣料が決まれば簡単だと言うことが解ってからは、要領を得た。 2回目の乗船では、荷物を2週間でまとめられた。靴は前回より控えたが、それでも多い。普段船内で過ごす楽な靴、船内でのフォーマル用のエナメルシューズ、インフォーマルや普段の夕食時用のシューズ。下船して観光するのに疲れない軽いスニーカー。破れた場合、濡れた場合を考える。遺跡や教会などの石段にはグリップの効いたシューズ。砂浜を歩くのにはサンダルといった具合だった。
しかし、僕ら夫婦の荷物は、むしろ、衣料以外のものが多かった。持病の薬、100日分(医者に前もって頼んでおく)。各自が読む書籍をそれぞれ段ボール1箱(最初のクルーズでは、予想外に船内イベントや教室に参加することが多く、結局読み切れなかったが)。カメラは故障を憂慮して新旧のデジカメにフィルム装填を含め5台。双眼鏡2個(操舵室には船客用の高倍率双眼鏡が備えられていることを知らなかった)。
僕と妻のパソコン2にプリンター1。大量のプリンター用インクに用紙、印画紙(船内でも有料プリント機はある)、ゼムクリップ、修正液、ステイプラー、ハサミ。キャビンでのパソコン用に組み立てテーブルなどなど、船に事務所が移るような事務雑貨類があった。 主な寄港地での観光案内は、船内のライブラリーに完備されていることと、主要な現地の地図は船内に乗り込んできてくれるツーリスト社が配布してくれるので、持ち込む必要はなかった。
ともあれ、1週間目で南シナ海の夏に突入して、インド洋の真夏、地中海で春、イベリアから西欧で秋、北欧で冬、大西洋を渡りきってバミューダ、
メキシコで再び真夏、やがて90日目になると,アラスカのフィヨルドから氷河で真冬、大気の冷えたアリューシャン列島からカムチャッカを経ると、急に気温は高まり、汗が噴き出す夏の横浜へ帰港する。
世界一周クルーズした年は、四季ではなく六季、七季を過ごして、なんだか長生きした気分になるのだ。 長期の旅だからと言って、船旅に時差ボケはあろうはずがない。西へ西へ、スエズまで時間が延びて朝寝坊ができ、体調は極めて良くなったと思う。
「私たちは日や週単位ではなく、季節で物を考えることを覚えた」(「南仏プロヴァンスの12か月」河出書房新社)あのピーター・メイルと想いは同じだ。七季まで暦を引き延ばしてくれる船旅のスローライフは、それだけで贅沢そのものである。

準備をどうすればいいのか、初めてのクルーズ説明会で親しくさせていただいた「夢航海」の著者、東康生カメラマンにお訊きした。 「居間に段ボールを並べておいて、気がついたときに放り込んでおくのですよ、そこで確認しながら、入れ替えたりする。量も把握できるし、色味も眼に入る。結局はあれやこれや多すぎて、引き算しますがね」 それを実行した。徐々に増えていくのを眺めていると、乗船が 楽しみになることは確かだった。
通常は旅行の申し込みは1年も前からできるのだが、出発は4月初旬だからと、僕の場合は初めてクルーズに出た年でも、荷物の準備を始める気になったのは11月を過ぎてからだった。 二人での旅行ですから、バランスを考えてくださいと妻に言われ、仕方なくデパートに出向く。半袖のゴルフウエアなどを買い足そうとしても、季節のずれた時期に思うようなものは手に入らない。夏物だけは要注意である。

船会社から渡されている冊子には寄港地の平均気温が出ている。寒い地方では悪天候を想定した。それに加えて船のデッキでの風を考える。冬と夏の衣料が決まれば簡単だと言うことが解ってからは、要領を得た。 2回目の乗船では、荷物を2週間でまとめられた。靴は前回より控えたが、それでも多い。普段船内で過ごす楽な靴、船内でのフォーマル用のエナメルシューズ、インフォーマルや普段の夕食時用のシューズ。下船して観光するのに疲れない軽いスニーカー。破れた場合、濡れた場合を考える。遺跡や教会などの石段にはグリップの効いたシューズ。砂浜を歩くのにはサンダルといった具合だった。
しかし、僕ら夫婦の荷物は、むしろ、衣料以外のものが多かった。持病の薬、100日分(医者に前もって頼んでおく)。各自が読む書籍をそれぞれ段ボール1箱(最初のクルーズでは、予想外に船内イベントや教室に参加することが多く、結局読み切れなかったが)。カメラは故障を憂慮して新旧のデジカメにフィルム装填を含め5台。双眼鏡2個(操舵室には船客用の高倍率双眼鏡が備えられていることを知らなかった)。
僕と妻のパソコン2にプリンター1。大量のプリンター用インクに用紙、印画紙(船内でも有料プリント機はある)、ゼムクリップ、修正液、ステイプラー、ハサミ。キャビンでのパソコン用に組み立てテーブルなどなど、船に事務所が移るような事務雑貨類があった。 主な寄港地での観光案内は、船内のライブラリーに完備されていることと、主要な現地の地図は船内に乗り込んできてくれるツーリスト社が配布してくれるので、持ち込む必要はなかった。
ともあれ、1週間目で南シナ海の夏に突入して、インド洋の真夏、地中海で春、イベリアから西欧で秋、北欧で冬、大西洋を渡りきってバミューダ、
メキシコで再び真夏、やがて90日目になると,アラスカのフィヨルドから氷河で真冬、大気の冷えたアリューシャン列島からカムチャッカを経ると、急に気温は高まり、汗が噴き出す夏の横浜へ帰港する。 世界一周クルーズした年は、四季ではなく六季、七季を過ごして、なんだか長生きした気分になるのだ。 長期の旅だからと言って、船旅に時差ボケはあろうはずがない。西へ西へ、スエズまで時間が延びて朝寝坊ができ、体調は極めて良くなったと思う。
「私たちは日や週単位ではなく、季節で物を考えることを覚えた」(「南仏プロヴァンスの12か月」河出書房新社)あのピーター・メイルと想いは同じだ。七季まで暦を引き延ばしてくれる船旅のスローライフは、それだけで贅沢そのものである。





