妻の化粧品が2倍?
「クルーズに出ると、結構、化粧品の消耗が早いのがわかったわ。平均すると1.5倍かな、私には2倍は必要だわ」
最初の世界一周から帰国したときの妻がけろっとしながら言った言葉が気になっていた。
化粧品の量を2倍とはじき出したのは、どんな理由からかと妻に尋ねた。
「早朝は、ノーメイクでプロムナードデッキ、ウオーキングしたとしても、朝昼晩の3回の食事はレストランに出て行くでしょう? 普段なら朝1回の化粧で一日過ごす私でさえ、夕食時には化粧をし直すわ。まして、インフォーマルやフォーマルナイトの日は、私だって念入りになるわよ」 もちろん、一日3回きちんとメイクする女性だっているだろう。女性が美しく化けて活き活きしてくれるなら、僕はとやかく言えない。その上、毎晩のようにダンスを楽しんでいるご婦人方は、汗ばむこともあるだろうから、さらに、化粧直しが必要になるかも知れないのだ。
2度目の世界一周のとき、約一日かけてスエズ運河通航を終え、ポートサイードに入港した夜だった。「明日は、どうしても、スーク(市場)に行ってみたいから忘れないでね。買っておきたいものがあるのよ」珍しく妻が下船した後の街歩きに注文をつけた。 「そんなに張り切って、何が買いたいんだ」と訊くと、「敏感肌用の洗顔石鹸。今回持ってきたのが柔らか過ぎて、あっという間になくなっちゃったのよ」 前回の経験から、3ヵ月分の化粧品として普段の2倍を持ち込んだはずだった。だが、初めて使ってみる洗顔石鹸の減り方は、彼女にも計算できなかったようだ。 寄港地で、たった一つの石鹸を探し回って買うという楽しさを知ってしまった妻は、その後イタリア、ベルギーなどでも喜んで洗顔石鹸を買い足していた。
朝食を終えたころから各部屋にハウスクリーニング・スタッフが回ってくる。掃除が始まる。ドアノブに「DON'T DISTURB」プレートを出さない限りは、部屋の中に留まることは出来にくい。僕たちは部屋を空ける。 そのときに出向く場所は多い。午前のカルチャー教室、スポーツ教室などが始まるのがちょうどこの時間帯だ。様々な場所で、イベントスタッフが企てた教室やゲームプレイが待ち構えている。勿論、この時間を利用して美容室やネール・サロンに出掛けるもよし、アロマテラピーでも、マッサージルームでも、フィットネス・コーナーでもいいわけだ。
朝からプールで泳げるほどの気温の海域であれば、泳ぐも良し。なにしろ、航行している海域の海水を汲み上げているので、「インド洋で泳いだ」「エーゲ海で泳いだ」「大西洋で……」と言っても、嘘ではない。突然、スコールが来ても、にっぽん丸なら屋根が閉まるプールである。
僕は、一回目のクルーズではスエズからパナマを抜けるまでは、7階のフィットネス・コーナーでエアロバイクに乗って汗をかき、自室のシャワーを浴びてから、昼食に出かけていた。 デッキチェアに体を横たえて本を読んでいる妻も日焼け止めを塗っていたりするから、シャワーの後であらためてメイクをするというわけだ。そこへいくと、男の場合は、たかが知れている。せいぜい整髪料くらいだ。それだって夕食前に展望風呂に行けばそこに備えつけられている。僕に限っていえば、連日連戦のデッキゴルフに必需品がある。1度目は、強い紫外線と筋肉疲労に困ったからだ。2度目は、アロエのボディローションとインドメタシンのゲルを大量に買い込んで乗った。
船に乗ると女性の化粧品使用量が増える。クルーズを通してコミュニケーションの場が案外多いことを物語っている。
そのおかげで、夫婦共通の「船友」が多くできるのだ。カジュアルな昼間の姿から一転して、フォーマルな夜を迎えると、そこにはなんだが面映ゆい華やいだ空気が流れる。
……だが、男達は妻の化粧品の持ち込み量までおそらく、気づいてはいないだろう。
2度目の世界一周のとき、約一日かけてスエズ運河通航を終え、ポートサイードに入港した夜だった。「明日は、どうしても、スーク(市場)に行ってみたいから忘れないでね。買っておきたいものがあるのよ」珍しく妻が下船した後の街歩きに注文をつけた。 「そんなに張り切って、何が買いたいんだ」と訊くと、「敏感肌用の洗顔石鹸。今回持ってきたのが柔らか過ぎて、あっという間になくなっちゃったのよ」 前回の経験から、3ヵ月分の化粧品として普段の2倍を持ち込んだはずだった。だが、初めて使ってみる洗顔石鹸の減り方は、彼女にも計算できなかったようだ。 寄港地で、たった一つの石鹸を探し回って買うという楽しさを知ってしまった妻は、その後イタリア、ベルギーなどでも喜んで洗顔石鹸を買い足していた。 朝食を終えたころから各部屋にハウスクリーニング・スタッフが回ってくる。掃除が始まる。ドアノブに「DON'T DISTURB」プレートを出さない限りは、部屋の中に留まることは出来にくい。僕たちは部屋を空ける。 そのときに出向く場所は多い。午前のカルチャー教室、スポーツ教室などが始まるのがちょうどこの時間帯だ。様々な場所で、イベントスタッフが企てた教室やゲームプレイが待ち構えている。勿論、この時間を利用して美容室やネール・サロンに出掛けるもよし、アロマテラピーでも、マッサージルームでも、フィットネス・コーナーでもいいわけだ。
朝からプールで泳げるほどの気温の海域であれば、泳ぐも良し。なにしろ、航行している海域の海水を汲み上げているので、「インド洋で泳いだ」「エーゲ海で泳いだ」「大西洋で……」と言っても、嘘ではない。突然、スコールが来ても、にっぽん丸なら屋根が閉まるプールである。僕は、一回目のクルーズではスエズからパナマを抜けるまでは、7階のフィットネス・コーナーでエアロバイクに乗って汗をかき、自室のシャワーを浴びてから、昼食に出かけていた。 デッキチェアに体を横たえて本を読んでいる妻も日焼け止めを塗っていたりするから、シャワーの後であらためてメイクをするというわけだ。そこへいくと、男の場合は、たかが知れている。せいぜい整髪料くらいだ。それだって夕食前に展望風呂に行けばそこに備えつけられている。僕に限っていえば、連日連戦のデッキゴルフに必需品がある。1度目は、強い紫外線と筋肉疲労に困ったからだ。2度目は、アロエのボディローションとインドメタシンのゲルを大量に買い込んで乗った。
船に乗ると女性の化粧品使用量が増える。クルーズを通してコミュニケーションの場が案外多いことを物語っている。
そのおかげで、夫婦共通の「船友」が多くできるのだ。カジュアルな昼間の姿から一転して、フォーマルな夜を迎えると、そこにはなんだが面映ゆい華やいだ空気が流れる。……だが、男達は妻の化粧品の持ち込み量までおそらく、気づいてはいないだろう。





