船旅は、“婦”唱夫随
銅鑼が鳴って船が桟橋を離れ始める。見送りの人々の「行ってらっしゃーい!」の声。妻は、満面の笑みでだれかれとなく「行ってきまーす」と返している。デッキで配られたシャンパンを片手に「初めての船旅なんですよ」と、憮然とした顔で話しかけてきたのは僕と同じ年代の男性。その向こうで彼の奥方が何本ものテープを握り締め、夢中でハンカチを振っている。笑みがこぼれている。その顔から「腰の重い主人をとうとう乗せてしまいました」と読める。
徐々に徐々に見送りの人たちの顔が小さくなっていく。湾を出るまでしばし、何組かの夫婦がデッキの手すりで肩を並べ、押し黙って海を眺めている。
なかなか絵になる風景である。
僕らも最初の世界一周クルーズの時はデッキで、文字では言い表せないような気分に浸ったものだった。
昨秋、テレビ朝日系ドラマ「熟年離婚」では妻が突然、夫に離婚を切り出すシーンがあった。このタイトルは流行語になったくらいだ。何度も何度もこの言葉が繰り返されると、熟年離婚は当然だと世の中が言っている気になる。何十年も続けてきた結婚生活の、すべてに関して夫が悪いというのか。
それはともかく、妻に溜まっているストレスのマグマを、いかに発散させるかということが問題になる。 船に乗った夫婦は、それに対して一つの解決策を見つけたと言えるのではないだろうか。
読売新聞東京広告局によると海外旅行に関して団塊の世代は、3年間の間に29.4%の人が海外旅行をしている。海外旅行の参考にしたのは、友人知人家族からの情報というのが、58.3%で、次が新聞広告。(「団塊とその上下世代の日常生活とメディア接触調査」2006年8月28日から9月8日、首都圏サンプル1813名) 世界一周クルーズに参加した中でもかなりの人が、新聞広告を見て申し込んだと聞いた。奥様が新聞広告を捨てないで大事に取り置いていたとも。全面広告、我々は15段広告というのだが、これに夢を託したそうだ。
どうせ一度だけの贅沢なら、死ぬ前に出掛けてみたいと切り出した奥様もいた。家に呼び寄せた息子達から、それとなく応援の言葉を貰ってご主人に迫ったという策略家も。
それ以上に驚いたのは、黙って奥様が申し込んでしまい、その後でご主人に切り出すという進め方が成功したというパターンが多かったということ。
長期クルーズは大体1年前から募集していて、出港3ヵ月前まではキャンセル料が発生しない。「だから早く申し込んでも大丈夫、キャンセル待ちにならないためにも」と、嬉々として?ご主人を説得するのだそうだ。 「その1年の間に古女房が若返っていくんだよね、あれこれ服装を準備したり、アクセサリーを選んだり、世界遺産の番組見たり……僕はそれを見ているうちに観念したよ」と、船友になった一人が言っていた。
船に乗ったら、睡眠と食事のとき以外は、ご主人と全く別行動で楽しめますよという旅行会社の勧めで決意したという奥さんもいた。事実、その奥さんは朝食が終わった途端ダンス教室に出掛け、英会話教室に移り、コントラクトブリッジも覚え、大学教授の特別講演でノートを取り、デッキではシャッフルボードに打ち興じ、海水のプールに浸るかと思えば、ホールでテノール歌手の声に痺れていた。彼女に言わせると、「だって、これまで行きたくても行けなかったことが、一度にできるんですもの、クルーズ料金に全部入っているんですもの、楽しまなくちゃあ」。 そして、最初はなんだかんだと被害者のような顔をしていた男の大半が、下船するときには、自分から次のクルーズを申し込んでいる。
奥さんの勝ちだ。
我が家でも妻の楽しみ
が変わった。撮った数千枚の写真が彼女のパソコンの中にある。彼女はその写真がランダムに出現するスライドショーにして、寄港地や海の場所当てを独りで楽しんでいる。来る日も来る日も、「(夕陽を見つめて)…インド洋!」「(馬車留めを見て)ニューオーリンズ!」と叫んでいる妻の後ろ姿。
それは飽きもせず、いや有り難いことに3年間続いた。
なかなか絵になる風景である。
僕らも最初の世界一周クルーズの時はデッキで、文字では言い表せないような気分に浸ったものだった。
昨秋、テレビ朝日系ドラマ「熟年離婚」では妻が突然、夫に離婚を切り出すシーンがあった。このタイトルは流行語になったくらいだ。何度も何度もこの言葉が繰り返されると、熟年離婚は当然だと世の中が言っている気になる。何十年も続けてきた結婚生活の、すべてに関して夫が悪いというのか。
それはともかく、妻に溜まっているストレスのマグマを、いかに発散させるかということが問題になる。 船に乗った夫婦は、それに対して一つの解決策を見つけたと言えるのではないだろうか。
読売新聞東京広告局によると海外旅行に関して団塊の世代は、3年間の間に29.4%の人が海外旅行をしている。海外旅行の参考にしたのは、友人知人家族からの情報というのが、58.3%で、次が新聞広告。(「団塊とその上下世代の日常生活とメディア接触調査」2006年8月28日から9月8日、首都圏サンプル1813名) 世界一周クルーズに参加した中でもかなりの人が、新聞広告を見て申し込んだと聞いた。奥様が新聞広告を捨てないで大事に取り置いていたとも。全面広告、我々は15段広告というのだが、これに夢を託したそうだ。

どうせ一度だけの贅沢なら、死ぬ前に出掛けてみたいと切り出した奥様もいた。家に呼び寄せた息子達から、それとなく応援の言葉を貰ってご主人に迫ったという策略家も。
それ以上に驚いたのは、黙って奥様が申し込んでしまい、その後でご主人に切り出すという進め方が成功したというパターンが多かったということ。
長期クルーズは大体1年前から募集していて、出港3ヵ月前まではキャンセル料が発生しない。「だから早く申し込んでも大丈夫、キャンセル待ちにならないためにも」と、嬉々として?ご主人を説得するのだそうだ。 「その1年の間に古女房が若返っていくんだよね、あれこれ服装を準備したり、アクセサリーを選んだり、世界遺産の番組見たり……僕はそれを見ているうちに観念したよ」と、船友になった一人が言っていた。
船に乗ったら、睡眠と食事のとき以外は、ご主人と全く別行動で楽しめますよという旅行会社の勧めで決意したという奥さんもいた。事実、その奥さんは朝食が終わった途端ダンス教室に出掛け、英会話教室に移り、コントラクトブリッジも覚え、大学教授の特別講演でノートを取り、デッキではシャッフルボードに打ち興じ、海水のプールに浸るかと思えば、ホールでテノール歌手の声に痺れていた。彼女に言わせると、「だって、これまで行きたくても行けなかったことが、一度にできるんですもの、クルーズ料金に全部入っているんですもの、楽しまなくちゃあ」。 そして、最初はなんだかんだと被害者のような顔をしていた男の大半が、下船するときには、自分から次のクルーズを申し込んでいる。
奥さんの勝ちだ。
我が家でも妻の楽しみ
が変わった。撮った数千枚の写真が彼女のパソコンの中にある。彼女はその写真がランダムに出現するスライドショーにして、寄港地や海の場所当てを独りで楽しんでいる。来る日も来る日も、「(夕陽を見つめて)…インド洋!」「(馬車留めを見て)ニューオーリンズ!」と叫んでいる妻の後ろ姿。 それは飽きもせず、いや有り難いことに3年間続いた。





