旅・宿・移住

2008/02/19

イギリス編 その1

イギリスで飲む「生」のエールやビターは別物だ。地域に根ざしたローカルなビール酒場を歴訪するという純粋な喜び。パブの扉を開ける度に、またワン・ステップ、ビール道を進める。もうひとつ、夢も叶う。

実は英国のビターなるものが苦手だった。
苦手というより、その特異な味わいを今ひとつ楽しめなかったのである。が、そこはビール好きの勝手なところでそれしかないという無人島的境遇が2日も続くといつのまにか舌が慣れてしまう。
不味いと言いつつも2日目にはこれもいいなー、3日目にはやっぱり旨いよに変わってしまうのである。悲しくて、しかもあさましい根性だと正直思う。しかしそれが私なのである。

ライという英国で一番可愛らしいとされる街がある。ドーバーにほど近い丘の中腹に張り付いたような町というより村だ。ここにMARMAID INN という木造の古いホテルがある。旅籠というのが相応しい。ここにバーが付属している。
寒い時期には壁の古い暖炉に火が入っている。
スペースを十分にとった椅子とテーブルの間を我が物顔で近所の客の愛犬が歩き回る。
子細に店内を伺うと床はかしいでいるし、天井の梁と柱とが正しい直角を作っていない。歪んでいるのだ。入り口のドアは立て付けが悪いし、なにしろ肝心要のカウンターも傾いている。
にもかかわらずしばらく飲んでいると、安心感は次第に深まり、椅子に腰掛ける角度も浅くなっていく。
3、4組の客も英国では珍しく小さな声でしゃべっている。もちろん大きな声であっても私には何をしゃべっているのか分からないのであるが。
外では小雪が舞っているのが高い位置の窓越しに見える。
心が寒くなり、暖炉の脇で汗がでるほど暖まる。
ここで飲む OLD PEDGREEは旨い。またワン・ステップ、ビール道を進める。もうひとつ夢も叶った。

ウエールズの主都、カーデイフは何気ないが風情もあり、しかも新しい感覚が見える良い街だ。ローマ以来の城で持っているような街だが、町並みには気品と余裕がある。2本ある歩行者道路の両側にはショッピング街が広がっている。いいビール酒場もある。
私が行ったのはニュー・シアターそばのBRANNIGANSブラニガン。
大店舗である。入って左が奥まで広がる40坪ほどのラウンジ。真ん中に店に割には小振りのバーカウンター。入って右に屋根付きのテラス。定食のランチを取りながら、WORTHINGTONとJOHN SMITHのビターを1杯ずつ。日曜日のせいか、ギターとヴァイオリンのデユオでソフトなジャズを演奏していた。

ドーチェスターという街に行ったことがある。ロンドンから南西に約200キロ。ドーセット州の中心である。
わたしにとってはドーチェスターはいくつかの意味で行ってみたい街だった。
その第一はトーマス・ハーデイの生地にして長く住んだ街であること。彼の多くの小説の舞台になった地方であるから、かれの愛読者には聖地とでも呼ぶべき街だ。
その二はこの街の地ビール、名門ELDRIDGE POPEである。
この醸造所のオーナーはハーデイと親しく、ハーデイもまたこの地元産のビールをたたえる文章を書いたとされている。しかもハーデイの名を冠したビールもある、と読んでいた。
3つ目はアラビアのロレンスこと、T.E.ロレンスである。
かれは最晩年をこのドーセット地方に住み、愛用のオートバイを乗り回していた。
ロレンスとハーデイが友人どおしであったというのも、ドーチェスターへ行ってみたいという充分な理由になっていた。
ドーチェスターでは街の中心を横切る長い大通りに面したWHITE HART HOTELに泊まった。緩やかな坂道を少し昇ると、ハーデイの小説「キャスターブリッジの市長」に登場するキングスアームズ・ホテルがある。そのまた少し先にはドーチェスター州立博物館。2階にはハーデイの書斎をそのまま再現した部屋もある。
私がいったときにはハーデイとその妻、そしてT.E.ロレンスとの交流を物語る特別展が開催中で思いも掛けずにタイムリーな企画で嬉しかった。

酒場も兼ねているホワイトハートホテルにチェックインして、下のバーへ早速のみに行く。
当然、地ビールのエルドリッジポープが置いてあるだろうと、思ったら、これがない。
宿のオーナーであり、バーマンである主人ダニーにポープはないの、どこへ行ったら、飲めるだろうかとは、正直聞き難い。ダニーが少しの間カウナターから離れた隙に隣のカップルに聞いてみた。すぐそこのパブで飲めると小さな声で答えた。旨いかと聞いたらこれ)よりもいいと言って、ウインクする。
これというのはその時私たちが飲んでいた、BADGER*のTANGLE FOOTとDORSET BESTだ。
主人が戻ってきたら、早速このことが話題になっている。この日本人の連中はポープが飲みたくてこの街へきたらしいぜ。そしたら主人はあんなビール(BULLSHITと言ってた)と言って、拳をにぎって、親指を下へ指した。ここのバジャーが最高なのだと鼻膨らませ、息巻くのである。もちろん半ば冗談なのだが。





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