オトコの定番

  •  PR  
2007/10/11

万年筆の写真文集『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』ガイド その2

 先週に引き続き『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』ガイドをお送りします。

 総革張りの、社長や大臣が使うとされている大きな椅子に腰かけて、パイプをくゆらすか、ハードリカーのはいったグラスを持ちながら、昨今随分と色々な色のインクが出ているようだね…などと語るコレクターのコレクションは、第一次世界大戦から第二次世界大戦までのアメリカ製万年筆やイギリス製万年筆が多いのだけれど、しかもそのほとんどが、ミントと呼ばれる未使用新品やニアミントと呼ばれる新古品で博物館にでも収めておいたほうがよいと思われる文字通りミュージアム・ピースなので、使ってみたいという衝動にはかられるけれどさすがにインクを入れる気にはなれないシロモノばかり。だいたいほしくても、のどから手が出るだけで届かない、届かない。

 その一方で。
 毎月2回行われている、万年筆を愉快に研究するための会合にやってくる人たちは、万年筆を所有しているだけで幸福を感じたり、手に入れた万年筆を見たり触ったりしているだけで悦楽を感じたりする人たちではない。厳密にいえばそのような人たちは数少なくて、むしろ自分にとって最高の書き味や書き心地を求めて、右や左、東や西、前や後に、ぶつかったりけつまずいたりしている人たちである。やっと手に入れた憧れの万年筆を毎日の生活で使おうと、磨いたり、直したり、調整したり、相性の良いインクを選んでみたり、愛好家同志情報交換をしあったりしている。その横顔は必死であり、時に思いつめていたりもするけれど、出走した時期がすこしばかり早かった私からすると、なかなかかわいい表情にも見える。誇らしげに見せてくれる万年筆のほとんどが、庶民的で、実用的で、シンプルな万年筆なので、つい親しみがわいて手が伸びる。よく見ると傷だらけだったり、インクまみれだったりもするけれど、それらは使い手の期待に精一杯応えている証拠なのであって、自分の万年筆ではないのにかわいく思えて仕方なくなるのだ。

 『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン! −私が選んだ一本の万年筆−』は当初、「私が選んだこの一本」という仮タイトルでスタートした。かけがえのない何十本もの万年筆の中から一本だけを選ぶという作業は、愛好家にとって、なんとも苦痛の伴うことのようで、なかには、万年筆でなくてもよろしいか、と断って、鉛筆や筆にはじまって、爪楊枝、耳かき、焼酎、映画、ゴルフクラブを挙げる人たちが出てきたのだった。
 それは困るヨ、ということで、他の、それらしい、趣旨にふさわしいタイトルを考えたのだが、なかなか浮かんでこなかった。悶々としていたある夜、北郷カメラマンが撮影してくれた写真を紙面に整列させたコンタクトシートの束をパラパラとめくりながら、心やさしい友人“とん太ちゃん”と電話で話していたときに、ふと思いついたのが『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』というタイトルだったのだ。直前に宇多田ヒカルの『travelling』のプロモーションビデオを観ていたのが頭に残っていたのかもしれない…。親しみを感じたり、かわいく思えたりした万年筆たちを賑やかに取り上げたいと思った。花吹雪が舞う中のパレードのように…。

 ウォーターマン「ルマン100・パトリシアン」、ヴィスコンティー「リシュリュー」、オノト「マグナ」、スェーネケン「111エキストラ」、オマス「イタリア’90」、クローネ「パラドックスシリーズ“サングリア”」など『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』には多彩に万年筆が集合しているが、58人の執筆者が選んだ万年筆で最も数の多いブランドはどこだったか。

 やはり。
 第1章の「私が選んだ一本の万年筆」に登場する万年筆は、圧倒的にモンブランが多い。58人の執筆者のうち、19人がモンブランを取り上げている。





この記事のトラックバックURL: