オトコの定番

  •  PR  
2007/10/04

万年筆の写真文集『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』ガイド その1

 先週、このコーナーで少し取り上げましたが、このたび『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』という本を出版いたしました。9月28日の発売以来、あっという間に完売してしまう書店が続出してしまいまして、10月1日に重版が決定いたしました。これも『男の隠れ家オンライン』の熱烈なる読者皆様のおかげだと感謝いたしております。この場をお借りしまして御礼申し上げます。

 テレビ番組じゃないけれど、この本の、企画、構成、演出、そして本の装丁とデザインまで担当したのが、このコーナーで拙文を毎週アップさせていただいている私なものですから、いつもご愛読いただいております読者の皆さま方に、とっておきのネタ、どこにも紹介していない見どころ、秘話、裏話、スタッフネタ、プロダクションノートを、今週から3回にわたって、御披露申し上げたいと思います。


 それでは。
 万年筆の本の話から。
 私が万年筆を買い出したのは、1978年頃。その頃、枕元に置いて年がら年中ページをめくっていた本といえば、
   『The万年筆』(梅田春夫著・読売新聞社)
   『万年筆』(梅田春夫著・平凡社カラー新書)
   『世界の文房具』(中央公論社)
 の3冊ぐらいでした。それらに加えて、大学に入った頃、ステレオサウンド社や中央公論社から、文房具に関するムック本があれこれと出版されて、飽きもせず、懲りもせず、同じページを繰り返し読んでいた日が懐かしく思い出されます。

 その後、中園宏さんという世界的な万年筆愛好家の貴重なコレクションが一冊の本になりました。
   『世界のアンティーク万年筆』(中園宏著・講談社)
 この本は、垂れるヨダレをぬぐいつつ、口にくわえた指を膝の上に戻しつつ、驚きをもってページをめくったものです。次々と「いつかは手に入れてみたい」万年筆が登場してくるのでした。

 新しい世紀を迎えて、さまざまな限定万年筆が毎年発売されるようになりました。またインターネットの時代になっていく中で、万年筆愛好家同士の情報交換が行われるようになり、そしてインターネットオークションの活況でコレクター魂は熱くなっていきました。
   『4本のヘミングウェイ』(古山浩一著・煙突工房→グリーンアロー出版)
   『万年筆スタイル』(ワールド・フォト・プレス)
   『趣味の文具箱』(エイ[木へん+世]出版)
 これらの書籍が出揃う2004年あたりからジワリジワリと万年筆ブーム再燃に拍車がかかっていったように私は思っていますが、使い手の側に立った万年筆の本が出せないかなぁと思うようになっていたのです。これまでの本は、作り手や売り手の側に立ったコンテンツばかりで…。

 このたび出版した『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』ってどんな本ですか?と新聞社やテレビ局の人に訊かれると、私は「万年筆の“写真文集”です」と答えています。そう答えると「写真文集? それって何?」といったリアクションが返ってきます 。






 『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』のページをめくってくださった方々は必ずと言っていいほど「写真が素晴らしいですね」と褒めてくださいます。「万年筆の表情が実に生き生きとしている」と評してくださった方もおられました。






 使い手の側に立って万年筆の本を作れば、登場する万年筆も表情が変わるはずです。これまで出版された本を見ていて、コレクター本の中に収められた万年筆は、どこか昆虫採集の標本のように私には見えました。ムック本に登場する万年筆は、着飾った女優のブロマイドあるいは通販ショッピングのカタログに収められた商品のように思えました。



 作りたかった本に登場させたかった万年筆。それは、使われている状態の美しさがあらわれている万年筆であり、愛着をもって使われて幸せそうな横顔を見せてくれる万年筆でした。実際に使用している万年筆を撮影するわけですから、ペン先にも、首軸の先端にも、インクが付着している。胴軸には、よくみると、無数の傷が付いている。なかには凹んでしまっているものもある。銀製のキャップはクリップ真下とそれ以外のところが色合いが違っている。そんな万年筆が何本も登場する本を出版してみたかったのです。

 写真の撮影は、万年筆を始めとする文房具類の撮影の第一人者、北郷仁カメラマンにお願いしました。彼は『趣味の文具箱』で毎号その腕をふるっています。








 撮影当初、ディレクターとして彼にお願いしたのは、「撮影のために万年筆をきれいにしてしまうのは、最小限度で」ということでした。
 たとえばインク。万年筆に入っているインクは撮影時にすべて抜き去って洗浄します。特にペン先にはインクが一滴たりとも残っていないようにきれいに拭き去ります。ペン先を比較するといった目的があれば別ですが「その作業は“いい加減”でいいからネ」とお願いしたわけです。撮影者は“最良の状態”をどうしても撮影しようとしますが、「ドラマでなく、ドキュメンタリーのノリでいってネ」と指示を出させてもらいました。表紙カバーで使っている写真の万年筆はモンブラン149ですが、ペン先にはカーボン・ブラック・インキが付着したままです。ヤラセでなくリアルな臨場感を大切にしました。

 明晰な北郷カメラマンは、必要としている写真がいわゆる“物撮り”として撮影されたものではないことに気づきます。表現しようとする世界を把握してくれた北郷カメラマンは、その後、撮影する万年筆の持ち主が書き綴った原稿を読み込んで、その原稿に書き綴られた世界を彼の感性で再現することを試みてくれたのでした。北郷カメラマンにお願いして本当によかったと思った瞬間でした。


 北郷仁さんが撮影してくださったカット数は、最終的には2万カットを超えていました。





この記事のトラックバックURL: