モンテグラッパ社製“エキストラ1930ゴールド”は、その名のとおり極上品なのだ!
万年筆愛好者の集い【萬年筆研究会WAGNER ワーグナー】が先週の日曜日、恵比寿(東京・渋谷)で行なわれた。定例会は毎月一回行なわれているのだけれど、夏休みの開催は、例年、大入り満員となる。
炎暑の街をフーフー言いながらやってきた愛好家諸氏は、子供のような顔をしながら夢中になって熱くなっていた。【萬年筆研究会WAGNER ワーグナー】では、会員同士が新たに増やしたコレクションを見せ合ったりするだけでなく、会長の森睦さんと山田衛さんの2人が会場で万年筆の調整をしてくれたり、修理や改造の相談にのってくれたりするので、まるで夏休みの自由研究“大人版”といった感じ。愛好家の心くすぐる新たな情報があっちこっちで飛び交ったり、長年書き心地に思い悩んでいた自分の万年筆がイメージどおりの書き味に豹変したりして、会場は興奮の坩堝と化すのだ。
なんといっても愉しいのは、自分の持っていない、でももしチャンスがあれば手に入れてみたい、憧れの万年筆と出会えること。集まった愛好家が40人ともなれば、ヴィンテージであれ、珍品であれ、限定品であれ、豪華絢爛金無垢モデルであれ、誰かしらが会場に持ってきていて、見たい、触りたい、書いてみたい、というリクエストに応えてくれるのだ。
【萬年筆研究会WAGNER ワーグナー】の会員に“文鎮王子”というニックネームの方がいらっしゃる。気に入って買い求められた万年筆がいずれもヘビー級なので筆記具として使わなくとも文鎮として使えるような万年筆ばかり。それで“文鎮王子”というニックネームがついたのだけれど、彼がいつも持ってくる万年筆は、どれも一度は手にしてみたいものばかりだ。写真には18本の万年筆が写っているけれど、見たことはあっても、触ったり、試し書きをしたりする機会がなかなかなかった万年筆ばかりである。もう少し詳しく記せば、珍しかったり、高価だったり、仰々しく陳列されていたりしたので、店頭で試し書きをお願いできなかったものがほとんどなのだ。
この“文鎮王子”さんは、極めて太っ腹、心が広く、器が大きい方なので、会場に来ると、会議机の上に、写真のように、ご希望の方はご自由にどうぞ、といったふうに全万年筆を公開なさって、ご本人は離れたところで、やってきた愛好家との会話を楽しんでおられるのが常である。 ある日、ある時、ある場所で、“文鎮王子”さんと、次のようなやりとりをしたのだった。
「モンテグラッパの“エキストラ”はいいですよ」
「あ、はい、はい。知ってます」
「“エキストラ”は、ペン先が大きくて軟らかい書き味です。私が持っているのは羊皮紙色のモデルだけれど、今度発売された“エキストラ1930”の縞模様は美しいですよ」
「そうですか…」
それから。 ひと月か、ふた月経った次の定例会の席でのこと。
“文鎮王子”が照れくさそうに近づいてきて、
「あ、この前、おすすめいただいたモンテグラッパ、買いましたよ」
「買った!? エキストラ1930を?」
「はい!」
「えぇっ! ほんとうですか!」
「見ますか?」
「見ますとも。いや、見せてください」
「はい、コレ」
「はい、コレって…」
(私は呆気にとられたのだった)
「 “文鎮王子”さん、アナタ、高いほうをお買いになったの?」
“文鎮王子”は微笑みながらこう答えたのだった。
「美しいほうを買いました」
“エキストラ1930”というシリーズに、“タートル・ブラウン”という名前のモデルがあるのだけれど、この鼈甲柄の万年筆だけは、2種類の異なったバージョンが用意されていて、一方は通常のモデルで部品にスターリングシルバーを使ったもの。もうひとつのほうは “エキストラ1930ゴールド”と呼ばれ、部品が純金製なのである。もちろん後者のほうが3倍以上高額なのだ。 “文鎮王子”さんは、生産数が少なくて珍しいから買ったとは言わなかった。どうせだから高価なほうを買ったのだとも言わなかった。美しいから買った、そう言ったのだ。すこしハニカミながらネ。







