どんなインクを選ぶかで アナタという人がわかります!?
大きな書店にいくと、腕時計や鞄や靴と肩を並べるように“万年筆本コーナー”ができるほど万年筆に関心が集まり始めている。万年筆本のコーナーがなかったとしても、『男の隠れ家』が置いてある書棚の周辺に目をやると、『趣味の文具箱』(エイ出版)や『万年筆スタイル』(ワールドフォトプレス)といったムック本を見つけられるかもしれない。どちらも、国内で入手できる万年筆のことが丁寧に紹介されており、これから万年筆を購入してみようかなぁという方々にとっては打ってつけの入門書である。
カラフルなページをめくり、麗しい写真に添えられた万年筆紹介文を読み進めていくうちに、なんとなく気になる万年筆が見つかる。あるいは、もうこれしかない、と特定の万年筆に一目惚れしてしまうかもしれない。そうして、今度の休みの日にでも早速買いに出かけよう、そんな気分になったとする。ここでアナタが忘れずに決めなくてはならないことがもうひとつ残っている! それは、使うインクである。
ブームを反映して、既存の万年筆メーカーに、アメリカやドイツの手作りインクのメーカーが加わって、実に多くの万年筆用のインクが売られている。
色目で分ければ、ブラック、ブルー、ブルーブラック、レッド、グリーン、ターコイズブルー、セピア、パープル、ボルドーなどがあり、万年筆には、必ずしも、メーカーの純正インクを入れる必要がないので、お目当ての万年筆をやっと手に入れる段になって、使うインクをなかなか決められない人が少なくない。ましてや、「万年筆は、一度使うインクを決めたら、途中でインクを替えないでいただきたいんです…」などとお店の人から告げられてしまうと、候補のインクの色が色々浮かんでいたはずなのに、頭の中は急に真っ白、なんてことになりかねないのである。
『万年筆とわたし 〜わたしが選んだこの一本〜』(南雲堂フェニックス)という本が来月出版される予定だが、この本の中で、60人の万年筆愛好家がお気に入りの万年筆を紹介している。ご本人が選んだ万年筆で原稿を書いてもらい、その直筆原稿を掲載することにした。万年筆の愛好家が、日ごろ、どんなインクを使っているかがわかって非常に興味深い。
一番多く使われていたインクは、やはり青系のインクだった。一口に<青>といっても実に種類が豊富で、南の島の海のように緑がかった青もあれば、すこし紫がかった薩摩切子のような青もあり、紬のようにしっとりと深みのある紺のような青もある。
古めかしい写真のようなセピア色のインクと、ほのかにくすんだ赤ワイン色のボルドー・インク、そして抹茶色のようなグリーンのインクにも人気があるようだ。
思わず息を呑んだのは、純金の万年筆にショッキング・ピンクのインクを入れて常用している、という愛好家だった。これは比倫を絶していた。
私がメインに使っているインクはプラチナのカーボンブラックインクと、おフランス製のインクで、ウォーターマン社のブルーブラックである。もう20年近く使っている。ブルーブラックという色合いは、よくよく見回してみると万年筆ならではのインクの色合いである。 使い始めた頃のブルーブラックインクは正露丸のようなにおいがした。冬の夜、静まり返った部屋で万年筆を使っていると、ふとインクのにおいに気がつくことがあって、しみじみしたこともあったが、最近のものはレシピが変わってしまい、においはしない。
そういえば。
撮影した60人の直筆原稿の中に、香水の香りが漂っていたものがあった。使用したインクの銘柄を見て、思わずニヤリとした。
日本には輸入されることのなかった「ドクター・ヤンセン製“シャネルNo.5”」だった。






