モンブランの名品「2桁シリーズ」にまつわる物語 その4 伊丹十三監督とピックス75
10年になる…。あの日…。伊丹さんが死んだ…。死の真相…。知る者は言わず…。言う者は知らず…。
万年筆を紹介することがテーマなのだけれど、今週はシャープペンを取り上げます。
伊丹十三。
俳優。エッセイスト。商業デザイナー。イラストレーター。レポーター。CMクリエイター。ドキュメンタリー映像作家。そして、映画監督。
その伊丹さんが愛用していたモンブランの0.92mm芯用シャープペン。
5月25日、『伊丹十三の映画』(新潮社)という本が出版された。2005年に発売された『伊丹十三の本』の続編である。
その中で、伊丹プロで唯一の常駐スタッフだった、デスクの吉川次郎さんが次のように書いている。
「…伊丹さんは罫線の類が大嫌いな人でしたね。使っていたのはすべて無地の白紙です。他人の作った型に自分を合わせることは絶対に我慢ならんという人でしたね。とにかく、伊丹さんは日記から何からすべてそのシステム手帳一冊で済ませてた。撮影中もそのシステム手帳だけは肌身離さず持ってました。絵コンテの類もすべてそこに描かれているわけです。手帳に使うペンはモンブランの4Bのシャープペン。よく神田神保町の金ペン堂に修理に持って行かされたのを覚えています。ボールペンの類を使ってるのは見たことがありませんね…」
4Bのシャープペンとあるが、伊丹さんが愛用されていたのは、2Bの間違いである。モンブラン「2桁シリーズ」のシャープペンをこよなく愛していた。手帳は、A5相当の大きなもので、色は覚えていないが、エルメス製だったと思う。
1936年、モンブランが画期的な方式のシャープペンを発表する。「ノック式ペンシル」と呼ばれるもので、シャープペンの頭(ボタン)をノックすると内蔵した芯が順繰りに出てくる方式のものだった。1970年代までの約40年間、モンブランで生産された、この「ノック式ペンシル」のことを「ピックス(Pix)」と呼ぶのだけれど、「ピックス」という名称は、ノックするときに生じる音からつけられた。
モンブラン「2桁シリーズ」のピックスには、大まかに分けると、下一桁の数字が「6」のものと「5」のモデルがある。「6」のほうには、1.18mmの芯を入れ、「5」のほうには0.92mmの芯を入れる。世界的には「6」のほうが人気だが、日本では「5」のほうが人気だった。「5」が受けたのは日本ぐらいだったという。
その理由は芯にあった、と言われている。日本国内でしか手に入らなかったメイドインジャパンの芯があったからだと言われているのだ。
その芯とは、ニューマン社製「ニューミクロ芯 舶来シャープ用替芯0.92mm基準」である。外箱にも、ケースにも、この芯の濃さを表すJISで決められた記号が記されていないが、この芯をニューマンに作らせた金ペン堂の店主、古矢健二さんに、芯の濃さは、鉛筆で言えば2Bに相当する、と教えてもらった。細くはないけれど太くなく、やわらかな筆記感覚が味わえるのに折れにくい。筆跡は黒々としているけれど、擦って汚れるほどではない。0.5mmや0.7mmの芯をポキポキ折りながらイライラ使ってきた人にとっては夢のような書き心地を体感できる。
モンブランの純正替芯は折れにくいが、HBどころか2Hくらいの硬さの鉛筆で書いている感じがして、0.92mmでも1.18mmでも、お世辞にも書きやすいとは言えなかった。高価なシャープペンなのにもかかわらず書き味が悪いということで人気は今ひとつだったのだろう。それが、ニューマン社製0.92mm用2B芯の誕生で人気が一変するのである。
金ペン堂では、ニューマン社製0.92mm用2B芯とモンブラン・ピックス75の組み合わせを“最高の組み合わせ”として販売した。片岡義男さん、糸井重里さん、林真理子さんらが、そのすばらしい書き心地についてエッセイに書き、ピックス75は、コピーライターやイラストレーター、デザイナー、放送作家など“業界人”の間でマストアイテムの筆記具として語られるようになっていったのであった。
伊丹十三。
俳優。エッセイスト。商業デザイナー。イラストレーター。レポーター。CMクリエイター。ドキュメンタリー映像作家。そして、映画監督。
その伊丹さんが愛用していたモンブランの0.92mm芯用シャープペン。
5月25日、『伊丹十三の映画』(新潮社)という本が出版された。2005年に発売された『伊丹十三の本』の続編である。 その中で、伊丹プロで唯一の常駐スタッフだった、デスクの吉川次郎さんが次のように書いている。
「…伊丹さんは罫線の類が大嫌いな人でしたね。使っていたのはすべて無地の白紙です。他人の作った型に自分を合わせることは絶対に我慢ならんという人でしたね。とにかく、伊丹さんは日記から何からすべてそのシステム手帳一冊で済ませてた。撮影中もそのシステム手帳だけは肌身離さず持ってました。絵コンテの類もすべてそこに描かれているわけです。手帳に使うペンはモンブランの4Bのシャープペン。よく神田神保町の金ペン堂に修理に持って行かされたのを覚えています。ボールペンの類を使ってるのは見たことがありませんね…」
4Bのシャープペンとあるが、伊丹さんが愛用されていたのは、2Bの間違いである。モンブラン「2桁シリーズ」のシャープペンをこよなく愛していた。手帳は、A5相当の大きなもので、色は覚えていないが、エルメス製だったと思う。
1936年、モンブランが画期的な方式のシャープペンを発表する。「ノック式ペンシル」と呼ばれるもので、シャープペンの頭(ボタン)をノックすると内蔵した芯が順繰りに出てくる方式のものだった。1970年代までの約40年間、モンブランで生産された、この「ノック式ペンシル」のことを「ピックス(Pix)」と呼ぶのだけれど、「ピックス」という名称は、ノックするときに生じる音からつけられた。 モンブラン「2桁シリーズ」のピックスには、大まかに分けると、下一桁の数字が「6」のものと「5」のモデルがある。「6」のほうには、1.18mmの芯を入れ、「5」のほうには0.92mmの芯を入れる。世界的には「6」のほうが人気だが、日本では「5」のほうが人気だった。「5」が受けたのは日本ぐらいだったという。
その理由は芯にあった、と言われている。日本国内でしか手に入らなかったメイドインジャパンの芯があったからだと言われているのだ。
その芯とは、ニューマン社製「ニューミクロ芯 舶来シャープ用替芯0.92mm基準」である。外箱にも、ケースにも、この芯の濃さを表すJISで決められた記号が記されていないが、この芯をニューマンに作らせた金ペン堂の店主、古矢健二さんに、芯の濃さは、鉛筆で言えば2Bに相当する、と教えてもらった。細くはないけれど太くなく、やわらかな筆記感覚が味わえるのに折れにくい。筆跡は黒々としているけれど、擦って汚れるほどではない。0.5mmや0.7mmの芯をポキポキ折りながらイライラ使ってきた人にとっては夢のような書き心地を体感できる。 モンブランの純正替芯は折れにくいが、HBどころか2Hくらいの硬さの鉛筆で書いている感じがして、0.92mmでも1.18mmでも、お世辞にも書きやすいとは言えなかった。高価なシャープペンなのにもかかわらず書き味が悪いということで人気は今ひとつだったのだろう。それが、ニューマン社製0.92mm用2B芯の誕生で人気が一変するのである。
金ペン堂では、ニューマン社製0.92mm用2B芯とモンブラン・ピックス75の組み合わせを“最高の組み合わせ”として販売した。片岡義男さん、糸井重里さん、林真理子さんらが、そのすばらしい書き心地についてエッセイに書き、ピックス75は、コピーライターやイラストレーター、デザイナー、放送作家など“業界人”の間でマストアイテムの筆記具として語られるようになっていったのであった。






