オトコの定番

2007/12/27

万年筆があって、幸せな一年でした。みなさん、ありぃがっとぉ!

7月
七夕の夜に、わたし個人のブログ『万年筆が好きである』に、“モンブラン@銀座「申し訳ございません。なにぶん入社したばかりなものですから」”というタイトルで記事を書いた。モンブランの銀座本店に行って、モンブラン149を試し書きさせてほしいとお願いしたところから始まる顛末記なのだが、過激に反応なさる訪問者も少なくなく、最小規模の“炎上”へと発展したのだった。わたしの主張は、「万年筆を売る以上は、購入する前に、試し書きをさせてほしい。購入したいと思っている万年筆と同型の書き心地を試させてほしい。納得してから購入したい」ということだった。
しばらくして、萬年筆研究会WAGNERの会員の一人から、モンブラン銀座本店で試し書きさせてくれるようになりましたよ、と教えてもらった。世界戦略の中でジュエリーとして筆記具をとらえることは素敵なことだが、客が筆記具として購入を検討している以上、試しに持ち、試しに書かせてほしい。モンブランの愛好者は実に多い。わたしもその一人だが、モンブランの過去の遺産を上手に活かして、かつてみたこともない、書いたこともない、万年筆の傑作を世に送り出してくれることを期待しています。



8月、9月
『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』の編集にかかりっぱなし。9月28日発売。店頭に並んでいるのを見た時はうれしかった、とあるところで感想を激白したら、ある電車のなかで見ず知らずのうら若き佳人が楽しそうにページをめくっているのを見かけた時には感激した、というのを聞いた。そんな光景にでくわしてみたいものだ。

9月18日。サッシャさんがナビゲーターをつとめるJ-WAVEの『WAKE UP TOKYO』にゲスト出演。すさまじい反響だった。万年筆を通して、「ロハス」や「スローライフ」を捉え直し、自分自身の生活を見直すきっかけとなった。ちょっと大げさに言うと“万年筆と人生”を考え直すことができたのだった。それ以来、テレビよりもラジオの生活になり、情報を浴びるだけの生活が情報を咀嚼し反芻する生活になった。頭の中にある思いを、誰かに送るために書くのではなくても、紙に書きつけ、しばらくしてからそれをもう一度読み直す、ということが大切な行為だと改めて思った。何をいまさら、なんて言わないでくださいな。



9月末に『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』が書店に並び、疾風怒濤、その反響に驚き、毎日毎日が、感動の連続だった。その間に、気がつくと44歳になっていた。そんな10月だった。



11月
万年筆が似合う著名人を選ぶ「ハートラインアワード」の授賞式があった。今年度の受賞者で一番反響があったのが松山ケンイチくんだった。この「男の隠れ家オンライン」で彼が副賞でもらった万年筆を紹介したら、さっそく翌日から問い合わせと注文が殺到したそうだ。
名誉なことが一つ。北海道でしか視聴できないラジオショーがある。『ウイークエンドバラエティ 日高晤郎ショー』。その番組中の「私の本棚」というコーナーで『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』が取り上げられ、星4.6も頂戴したのだ。辛口なコメンテーターで有名な日高晤郎さんがこんなふうに評価してくださったのだ。
「これ、何にも言いません。『ペン!ペン!ペン!ファウンテンペン!』でも、何にも言わないと商売にならないから言います。値段のほうは3000円とちょっと高めかもしれません。本の作りを見てごらんなさい。これ。3000円じゃ作れませんよ。この紙質とこれだけの写真、網羅して。みんな万年筆に対する思いを書いてる。で、編集のほうは、森睦、足澤公彦といった人たちがやっていますが、こりゃもう、南雲堂フェニックス、南雲堂フェニックス。万年筆が好きな人。万年筆に思いのある人。私ぐらいの年代だったら、みんなある。もうとにかく、中学か高校卒業すると万年筆でしたから。ま、小学校卒業でも、ちょっとお金持ちだったら、あったかなぁ。それに至るまで、今でも、私ぐらいの年代っていうのは、道具好きの、万年筆好きでしょう。見事な写真、見事な思い。よーく網羅して、万年筆が好きになる。あるいは、万年筆で何かを書きたくなるような。うーん、名品というような作品ですね。いい。しかも、作家が、ひょいと御手盛りで書いてるのが一作もありませんから。本当に万年筆に思いを寄せている人たちが書いているから。生身の声が。私の選んだ1本の万年筆、っていうのがサブタイトルです。いい本です」



そして12月。
 気がつくと、光と影の中を、勢いよく、矢は飛び放っていった。そんな風に感じる一年だった。ビギニングオブオジイサンだから、そう感じたのかもしれないが、振り返ってみると、やはり、たしかに、狂濤逆巻く毎日だった。
たくさんの出会いと別れがあった。もう2度と会うことのない別れもあった。お世話になりながら、そのままで、お礼も恩返しもできない別れもあった。

 ここのところ、走ってばかりだったのに立ち止まっている。「馬を走らせつつ花をみる」をモットーにやってきたけれど花がみつけられないのだ。ともに走る日々を送っている友人から一葉の葉書が届いた。万年筆でこうしたためられていた。
「様々な思いが錯綜されておられるようですが…。『波騒は世の常である。波にまかせて、泳ぎ上手に、雑魚は歌い雑魚は踊る。けれど、誰か知ろう、百尺下の水の心を、水の深さを。』(吉川英治『宮本武蔵』より)
私が迷った時、反芻している言葉です。自身が信ずるままに。」
 鮮やかな青色インクが目に焼きつき、やさしいお心遣いとともに、このことばが心の中に大切に保管された。



 ベラルーシだったか、モンゴルだったか、ヴェトナムだったか、記憶が定かでないのだが、どこかの国でむかし、「一生モノはネズミ年に買いなさい」という教えがあったそうだ。
 ネズミは結ばれたら最期まで伴侶を替えない。一生添い遂げる習性ばあるのだそうだ。結婚式や披露宴で“ウェディング・マイス”というネズミのペア人形を贈る風習もそこに起因しているのだろう。
人と人との関係と同じように、人とモノとの関係にも譬えられたのだろうが、ネズミ年に買ったものはずっと、失くさずに、使い続けていくのだという。これは、という万年筆を清水の舞台から飛び降りるようなつもりでお求めになるのなら、来年ですゾ!

 来年も、万年筆にまつわるエッセイを毎週連載していきたいと思っております。信ずるがまま、丁寧に文章を綴ってまいります。ご愛読を!

 新しい年が、人と、モノとに、良き出会いのある一年になりますように。







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