万年筆を使う女性は、美しくて…。紬、印傳、ラミー2000
コクがあるけれどしつこくない黒蜜をじっくり味わいながらおしゃべりしたのは、清先生御愛用のラミーの3本セットのことでした。クリップがとれてしまったものがあるといいます。早速見せていただきました。
トンボの模様の、印傳の筆入れには、ラミー2000の万年筆と4色ボールペンとシャープペンシルと、消しゴムが出てきました。消しゴムにもトンボのマークが…。そりゃそうですよね。トンボ製ですものね。クリップが外れてしまっているのはシャープペンシルでした。バネ式のクリップを固定する部品がなくなってしまっているようです。残念ながらメーカーに出さなければならないとお伝えしました。
私の友人には、古いものを大切に使い続ける人が大勢いますが、清先生のこだわりにはホント頭が下がります。この日も素敵な帯留めをされていました。 「あ、これはね、北京の瑠璃廠(リューリーチャン)の文房具街で見つけたものです。焼き物のかけらを日本で加工して帯留めに仕立て直したのです」
印傳のバッグに、印傳の筆入れ。きっと何かこだわりがあるんだろうな、と思い伺うと、 「実は、印傳が大好きで、トンボの模様のものをみつけると、思わず買ってしまうんです」
とおっしゃられ、印傳のバッグから、次々と“コレクション”を披露してくださいました。お財布、名刺入れ、定期入れ、キーケース、携帯ストラップ…。清先生もこだわる人だなぁ。
「トンボは“勝虫(かちむし)”と呼ばれるのを足澤さんは御存じ?」 「いいえ。はじめてうかがいました。なぜトンボが勝虫なんですか?」
「トンボって、俊敏な動きを繰り返しながら、前にしか飛ばないでしょ。常に前へ前へと飛んでいます。だから、勝虫。いにしえの武将が愛した模様のひとつなんですよ。私にとってもラッキーアイテムなんです」
清先生も、御主人でインド学者の竹中智泰先生も、極めてロジカルな学者だけれど、目に見えないものを信じ、畏れ多いものに対する敬意を忘れない方々なので、道を迷いそうになると、時々、深夜に、お電話をかけさせていただき、愚痴をこぼしたり、弱音を吐きつつ、進むべき選ぶべき道がどっちなのかを教えていただいたりしているのだ。
御愛用の3本にはいずれにも「R. Sei」とネームが彫りこまれていました。この3本をいつも持ち歩き、線を引くとき文字を書き記すときは必ずこの3本のいずれかをお使いになっているのだそうで、マット仕上げの表面がいずれも鈍い光を放っていました。なかでも万年筆は使用頻度がもっとも多いらしくツヤが美しく出ていました。
万年筆のペン先はブロードでしたが、なかなか立派な大きいイリジウムが付いていました。ペリカンM400だとBBくらいの字幅になるかもしれません。きちんと調整がされておりインクフローもよく、粘り腰の書き心地が特徴的でした。
写真を見ていただくとわかるかと思いますが、清先生は非常に筆圧が強く、しかもお書きになるときの筆勢は相当な早さです。指先に力をぐっと入れて、紙面に筆記具をギュッと押しつけながら、猛スピードで文字を書き上げてしまいます。このラミー2000が大変合っているように思いました。
今回、万年筆を取り出し、お使いになる所作の美しさに、思わず何度もため息をもらしました。万年筆を使われている指先に、女性らしさが如実にあらわれていました。ノックするだけやツイストするだけの筆記具は便利かもしれないけれど、連続する一連の動作の美しさというものが、キャップを外したり付けたりする万年筆にはあるように改めて感じました。
きものも万年筆も、効率最優先の、安っぽい文明生活のなかでは、不便さや面倒くささがあるように思われがちの、いつかは消えていきそうな文化的なアイテムです。しかし、人が創り出した、人のための道具を、毎日のくらしのなかで大切に使い続けていくうちに、その良さの神髄がわかりはじめ、自分を個性的に魅せ見せる必需品になっていくのだと強く感じました。 銀座の街を歩く人々は冷たい風に背を丸めています。
「きものって、あたたかいのよ。風邪など召さないよう。よいお年を!」
そうおっしゃると、清先生は、背筋をピンシャンと伸ばして、前へ、前へと、歩みを進めていかれたのでした。







