酒の旅人<5>
天童駅に降りると、日が射しているのに雪が舞っている。「出羽桜」の蔵へ行く前に、将棋をつくっている所に取材に出掛けた。「栄春堂に行けば実演販売しているよ」と地元のおばさんが教えてくれた。駅から真っすぐの道を歩いていけば10分ほどだ。雪道を踏みしめてサクサク。新雪は歩きやすい。
栄春堂代表の会田栄治さん(80歳)は山形県将棋駒協同組合の副理事長でもある。天童へ将棋を持ってきたのは織田信長だという。その後、江戸時代末期に将棋ブームが起こり、織田藩は米沢から将棋駒作りの職人を招き、藩給にあえぐ武士に将棋駒作りを奨励した。天童将棋の特徴は、書き駒である。細い蒔絵筆を使って草書体や楷書体の文字で「歩」「金将」「飛車」などと書いていく。書き師のもとで、弟子は5年10年と技術を身につけていったそうだ。戦後になると、駒木地に字体を刻み込んだ彫り駒や、漆で浮き出させた盛上げ駒などの高級駒もつくられるようになっていく。会田さんは将棋駒職人だけでなく、むしろ本職はこけし職人である。山形県こけし会の会長をつとめる。こけし作りの現場を写真に撮らせてもらったが、出来上がったこけしがお客の手に渡る時、手塩にかけた娘を嫁がせる気分になるという。

ひょんな事から名酒「出羽桜」に話が飛び、先代の仲野清次郎蔵元と会田さんが幼馴染みだったそうで、私は2,3度先代とお会いしただけだがひとしきりその話で盛り上がった。外に目をやると、雪が勢いをつけて降っている。空も先ほどの陽射しはどこへやら、どんより鉛色だ。長く降り続きそうな気配である。そこに出羽桜の仲野恭一常務が迎えに来てくれた。久しぶりの再会である。




