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2007/05/22

「ワインは神の世界に最も近い飲みものだから・・・ 」

【プロローグ】
15年前、私はある南フランスの田舎町の港が見える小さなアパートで一人二十歳の誕生日を迎えていました。当時私はフランスでF3選手権という自動車レースに出場していたのですが、住んでいた町には友達もいなく、また残念なことに日本からの来客もなかったため誕生日は一人寂しく迎える羽目になったのです。

そんな寂しさを紛らわしてくれる友が近所のスーパーマーケットで買ってきた(今思えばまだ食べるには少し熟成が足りず早すぎた)カマンベールチーズと焼きたてのバケット、その後のフランス生活でお気に入りとなるロゼワイン「コート・ド・プロヴァンス」でした。

コート・ド・プロヴァンスは一般的に南仏プロヴァンス地方の安い地酒で、色々な生産者が作っていますが、ボトルのシェイプは真中がくびれていてちょっとセクシーなタイプのものが多く、私が好きだったロゼは味はフルーティーでまるでジュースのように飲みやすいワインでした。

今ではユーロになって物価もだいぶ上がったのでそんな値段では買えないでしょうが、当時は15〜20フラン(200〜360円くらい)出せば私にとって美味しいロゼワインが買えました。

今思えば、そのコート・ド・プロヴァンスが私に最初にワインという飲み物を好きにさせてくれたきっかけでした。

Cotes de Provence Rose


【ワイン屋の理由】
「元カーレーサーのワインセラー日記」???
そんなタイトルを付けられてしまうといったい何故自動車レースの世界からワインなどという全く異なる世界に転向したのかを説明が必要ですね。

確かによく「酒井さんはどうしてレーサーからワインのビジネスを始められたのですか?」と質問されます。。。
たまにふざけて「名前が酒井だから酒屋になった」などと答えたりもしますが、それはたぶん嘘です。

私がワインの世界に魅せられ、それをビジネスとして、生業として選択した理由・・・
実はこの質問、答えにとても困るのです。。。。

もちろん二十歳の頃フランスで生活した経験があり、ワインという飲み物がとても好きになったことはあります。 また15年間活動した自動車レースの世界ではもう未練が無いほど十分に活動し、また己の実力も知り、レーシングドライバーとしてではなく何か他の仕事をして生計を立てていかなければという現実的な事情もありました。

でも、どうしてそれが車ではなくワインだったのか?
何故そこまでワインに魅せられてたのか?

実はこの質問に対する正確な答えは私自身もまだ突き止めていないのです。。

その答えにはなりませんが、ひとつだけ覚えている私自身のエピソードがあります。
14歳のとき、中学の美術の時間に森の中を走るレーシングカーとそれを背景に目の前に置かれたテーブルの上に赤ワインが注がれたグラスとボトルが並んでいる絵を描いた事があったのです。

その2年後に私は高校を中退しレースの世界で働き始め、18歳で全日本カートチャンピオンに、そして15年後にはデリバリーワインというインターネットでワインを販売する仕事をはじめました。

なので今考えるとその14歳の時に描いた絵がその後の人生を暗示していたのかもしれません。。。。
でも、そんな頃からワインに憧れていたのかなあと思うとずいぶんませた子供だったのだなとも思います。


【上を目指す人】
話は戻りますが、フランス時代、私はある衝動に駆られ、当時レースの世界でカリスマ的存在だったある人物に会いに行く決意をしました。

その人の名は「アイルトン・セナ・ダ・シルバ」

当時彼は世界的に有名なレーシングドライバーで誰もが知るスーパースターでした。

彼に逢いたいと思った理由、それは、当時セナは既に何度か世界チャンピオンに輝き、富も名声も手にしていましたが、彼はそれ以上いったい何を目的として走り続けるのだろうか? と疑問に思ったからです。
権謀渦巻き精神的にも過酷な自動車レースの世界でライバルやメディアからも批判を受けたりして彼はとても疲れているように見えたからです。


当時私はその後の人生とそしてレースで走ることの意味を真剣に考え悩んでいて、どうしても彼が走る理由、その答えを知りたかったのです。

もちろん、彼は世界のスーパースターだったのでそう簡単には会うことはできませんでしたが、まだ若く「やれば何でもできる」と根拠も無い自信に溢れていた私はF1開催中のパドックに忍び込み、セナが一人になったところを見計らい自己紹介をして20〜30分間二人きりで話をしてもらったのです。

今思えば無謀な行動でしたが、でもそれがその後私にとってかけがえの無い貴重な経験ともなりました。 その時の会話はまだ自分の胸にしまっておきたいと思いますが、実は彼の口から当時の私には納得のいく答えを聞き出すことができませんでした。

しかしその数年後、彼がレース中の事故により34歳の人生に幕を閉じ世界中の人々が彼の死を悲しんだ時、私は何故あの時自分はセナに逢いに行ったのか、また自分が知りたかったその答えを初めて少し分かった気がしました。

セナは自動車レースという過酷な世界に身を置き、日々自分を向上させ、人生の階段を昇る事によってその生涯を全うしました。

それはまるで神の世界に一歩でも近づこうと努力する行為、セナはそんな姿を世界中の人々にテレビの画面を通して伝えていたのだと私は感じました。

彼の死後、私は初めて走ることの意味、そして生きていることの意味を生前の彼の様々な言葉や姿勢から学ぶことができたのです。

人生の目的、それは人によって異なると思いますが、私は常に自分を向上させ社会との関わりを大切にしながら 「上を目指すこと」 であると解釈しています。

生前セナはあるインタビューで「あなたは裕福な家庭で両親の温かい保護のもとに育ち環境とチャンスに恵まれたから成功したのではないか?」との質問にこう答えています。

「それは違う、皆平等にチャンスは与えられている。 この世に生を受けた事、それ自体が最大のチャンスではないか。」
「誰にでも平等に才能は与えられている。それはレーサーとかビジネスマンや成功するという狭い意味のものではなく、人間としてまっすぐに生きていく才能、人間として恥ずかしくなく生きていく才能だ。 それに我々が気付くか否かだ」


この言葉を聞いてどう思いますか?
私にとっては人生の中で出遭った忘れられない言葉の一つです。


【今回のまとめ】
今回のブログのタイトル  「ワインは神の世界に最も近い飲みものだから・・・ 」  という話にはにはどうも到達しそうにありません(笑)

なのでぜんぜんまとめにはならないのですが、これから12回にわたり寄稿させていただくことになったこのブログは、ワインとそしてそこに携わる人々、人類とワインの歴史についていくつかのエピソードを交えながら私を含めた多くの人々が何故こうもワインという飲み物に魅せられてきたのか? というテーマを探っていきたいと思います。

これは私自身、何故ワイン屋をやっているのかという自分探しの旅でもあります。

前書きが少し長くなりましたが、これから3ヶ月間のお付き合いをどうぞ宜しくお願いいたします。






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