アウトドア・スポーツ

2008/06/17

富士山頂エクストリームアイロニング×2

須走口登山道。今回はソロでの登山だ。僕は少しでも先日の経験を生かそうと思い、前回の富士登山と同じルートをあえて選んだ。この須走口登山道は、他の登山道と比べても比較的空いているので、人混みが苦手な僕にとっては好都合なのである。僕がスタートしたこの日の夜の天候は晴れ。絶好の登山日和であった。ここ須走の5合目にてしばらく高度順応を図った僕は、発電機を背負い、意気揚々と登山道に取り付いていったのである。

スタート後、最初の1時間は本当に苦しかった。発電機がとにかく重いのだ。電源の確保は絶対条件だったので、携行品から発電機だけは外せなかった。他の装備は必要最低限に抑えてはいたが、それでも発電機の負担は激しく、泣きたくなるほど辛かった。前回発電機を背負ってくれた剛力は、地元の若い青年だった。これがこんなに辛いものだったとは。剛力を仕事としている人達は本当に凄いと思う。この25キロの発電機を背負ってみて、僕は剛力達の凄さを痛感した。

その後、森林限界線を越えてきたあたりからは、発電機を背負った肩は完全に麻痺し、逆に楽に感じるようになってきた。これがランナーズハイってやつだろう。僕はアミノ酸を定期的に摂取しながら、一歩一歩噛み締めるようスローペースにて着実に登っていった。片手に抱えたアイロン台がとてつもなく邪魔であった。

深夜3時、僕は山頂・剣が峰に到着した。帰って来た、というちょっとした感激もあったが、2900m付近から高山病によるひどい頭痛に襲われていた僕は、荷をおろすともう一杯一杯でその場にへたり込んでしまった。前回の富士登山よりも、僕は明らかに消耗していた。剣が峰に至る最後の難関「馬の背」の急勾配で、僕は力を使い果たしたのだった。

観測所脇の階段でへたり込んだままウトウトしていた僕は、うっすらと空に光が見え始めた頃にふと目を覚ました。日の出だ。僕はおぼつかない手つきで発電機を回し、アイロンを温めた。そしてしっかりと温まったアイロンを握り締め、太陽が雲海から覗く中、ゆっくりと噛み締めるようにシャツしわを伸ばしていった。それは時間にしておよそ4分。その時間は、まさに日本最高峰の達成感だったと言えるだろう。自分の足で全装備を上げ、その山頂で実際に電源を取ってアイロン掛けをした人間でなければ、ここで僕が体感した様々な効果は、きっとわかってはもらえないと思う。久々に自己泥酔した僕は、ニヤついたままとっとと山頂を後にした。ここで見る雲海の景色はまさに幻想的で、僕はたまに立ち止まって景色を眺めながら楽しく帰途についた。帰りは不思議と発電機の重さをあまり感じなかったが、翌日、僕の両足はフェイタスで埋め尽くされた。






僕の山岳エクストリームアイロニングには、哲学など一切存在しない。そんなものは不要なのである。僕は、ただそこが楽しそうだから山に登り、そこでアイロンを掛けたらかなり気持ちがよさそうだからアイロン掛けをする。ただそれだけなのだ。山頂におけるエクストリームアイロニングのシンプルさ。それを再度痛感した、今回の富士山頂でのアイロニングであった。

僕はチョモランマ(エベレスト)山頂でのエクストリームアイロニングを、このスポーツをする上での目標としているが、なぜそこまでしてやりたいのかとよく聞かれる。なぜそこまでしてアイロニングをやりたいのか。その答えは単純明快である。それは、そこでアイロンを掛けたら単純に楽しそうだし、そこでどんな効果が体感出来るか気になるから。ただそれだけなのである。僕はなぜやるのかという質問に「そこにしわがあるから」と答える事がある。でも、そんなのは単なるリップサービスに過ぎない。しわなんてあってもなくても僕は続けるし、また気が向かなければ山頂に辿り着いたってアイロン掛けなどやらないのだ。今回富士山に2回ほど登り、僕は自然とそこに行き着いた。たどり着いた先は、能書きのまったく無い、予想以上に質素な世界なのであった。これからもシンプルに、ただ単純に突っ走りたいと思う。この意味など、誰にも判って貰えなくたっていい。俺だって、まだよく判らないのだから。

富士山。まだ山頂に行った事が無い人は、この夏是非一度登ってみるといい。夏の富士登山に必要なのは、ちゃんとした装備と体力だけで、技術は特に必要ない。天候に恵まれれば、すさまじい星空と非現実的な景色が見れる筈だ。3776m。日本最高峰。そこに登る価値は確実にあるから。





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