ハイブリッド・ティーの誘惑
可愛い葉が出ている。思わずいい子、いい子と褒めたくなる。剪定されて小さくなっていたチビたちが、これからあっという間に大きく育つ。幼稚園に入ると、急に子供が赤ん坊を卒業するのと同じような感覚だ。細い茎に葉が生えただけで、がぜん頼もしく見える。発芽が遅くて心配させられた何株かも、一度目覚めると早い。すぐに他の株に追いついてしまう。
ただ、この若い芽、若い葉には、必ず虫が狙ってくるので警戒を要する。特にアブラムシは一日目を離しただけでびっしりと集っていたりする。ウィークエンド・ガーデナーでは対処できないので、これには株の根元に撒くだけで植物が吸収して効果を発揮するタイプの殺虫剤「オルトラン」の粉末を使っている。さらに、このような緊急時は、物置から噴霧器を引っ張り出して薬剤を希釈してなどという時間もないので、すぐに取り出せるようにスプレータイプの殺虫剤を下駄箱の中に置いている。とっさの場合は、発見した虫を指でつぶしたりしているのだが、数が多いとあまり気持ちのいいものではない。さて、イングリッシュ・ローズの話をしてきた。わが家には数えたら
15種類のイングリッシュ・ローズがあった。いつの間にそんなに増えたのか自分でも驚いている。考えてみると、この数はその生存率の高さを表していると思う。ウチの奥さんが植えた第一号の「ウィリアム・モリス」以降、まだ昇天したものはない。その育てやすさが最近の人気の秘密なのだろう。今さらながら、オススメとしてよかった。よくバラを趣味にしているということをいうと、「難しいでしょう」といわれる。イングリッシュ・ローズはそれに当たらないと思うのだが、たしかにうまく咲かせるには、難しくはないのだが、手のかかるものがある。そのひとつがハイブリッド・ティー・ローズだ。いわゆるモダン・ガーデン・ローズで、現代バラというと大半がこの種類に入ってしまう。バラといったら一番先に思い出されるバラ。簡単にいうと高島屋デパートの包み紙にデザインされているやつだ。これも種類がたくさんあって、全部が全部そうだともいえないのだけれど、秋山庄太郎の写真のような形で咲かせるとなると、かなりの努力と技術がいる。
ハイブリッド・ティーは、1867年にジャン=バプティスト・ギヨーが、ハイブリッド・パペチュアル系のバラと、
ティー系のバラを掛け合わせて「ラ・フランス」を作ったことから始まる。1868年が日本の明治維新だから、その前年に生まれたこのバラが、同時に現代バラの第一号となる。この「ラ・フランス」は、その後140年も栽培され続けて、子孫である一株がわが家の庭にもある。ピンクの芳香種で、最近のハイブリッド・ティーからすると丸くて少し違ったイメージがあるのだが、花びらが外側にめくれるようにカールするところは、剣弁高芯、つまり、花弁が内側に巻いて尖ったような形になり、さらに開花して花の中心位置が高いという現代の典型スタイルの権現様といった感じはある。この花、明治の初期には早くも日本に輸入されていて、西郷隆盛が欲しがったという記録があるそうだ。和名はなぜか「天地開」という。





