イタリア・オペラ日記 第5回 フィレンツェ
4月30日当夜は、「カルメン」のプレミエというだけでなく、5月音楽祭の実質的なオープニングの日のため、客席は豪華に着飾った聴衆で溢れていた。私は遠くて良く見えなかったが、女優のソフィア・ローレンやテノールのアンドレア・ボチェッリなども来ていたようだ。また当夜は一般的なレチタティーヴォによるグランド・オペラ形式ではなく、音楽を台詞でつなぐオペラ=コミーク形式による原典版だった。
また、昨夜のボローニャの「ノルマ」と同じくカメラが入っており、それによって明らかにマイクで声を拾ってしまっていた。日本でもオーストリアでもアメリカでも劇場にカメラが入ることは幾らでもあるが、マイクを通した声を拾ってしまう傾向は、どうもイタリアだけのようがする。RAIの技術力の問題なのかマイクの問題なのか劇場の造りの問題なのかは不明だが、とても残念である。
タイトルロールはロシア人のメッツォ・ソプラノ、ユリア・ゲルツェヴァ。ここ数年カルメン歌いとして世界中を廻っているが、飛び抜けた強い声や他を圧倒する演技力を持っているわけではないが、恵まれた容姿と広い声域レンジを活かした総合力で勝負するニュータイプのカルメンと言えるだろう。冒頭は緊張からか硬さが見えたが、徐々にエンジンがかかっていった。今年10月のローザンヌ歌劇場の「カルメン」では、ドマシェンコとのダブル・キャストで来日する予定。ただし、主催者の表記は、ユリア・ゲルセワとなっている。
ドン・ホセは、アルゼンチン人テノールのマルセロ・アルヴァレス。1995年のベッリーニの「清教徒」でイタリアにデビューして以来、透明感の高い美声と強いアクートで、世界中で活躍を続けてきた。私も20年、30年に1人の逸材としてデビュー以来注目をしてきた。年に1、2回はロンドン、パリ、ウィーンなどで聞いているが、最近はマンリーコやカヴァラドッシなどスピント系の諸役を歌うようになり、他のテノールのように重いものをやることによって、美声を失わないかを心配していた。結論から言うとホセ役はとても良いと思う。彼のホセを聞いたのは初めてであったが、必要以上に声を太く当てようとはせず、しかし息の量を増やすことによって劇的な効果を挙げることに成功している感じだった(ちょっと専門的になってしまって申し訳ない!)。3幕4幕などは、立ち廻りも激しく、かなりの熱演、熱唱で、新しいアルヴァレスの魅力を見たような気がする。
ミカエラは、アルバニア人のソプラノ、インヴァ・ムーラ。日本でもお馴染みの美人ソプラノだが、可憐なミカエラ役は声も容姿も彼女に良く合っている。フィレンツェでも人気が高いようで、タイトルロールのゲルツェヴァよりも多い拍手をもらっていた。
エスカミーリョはイタリア人バスのイルデブランド・ダルカンジェロ。良く鳴る美声を持ち、容姿も良く演技も上手い正統派のバスで、エスカミーリョも決して悪くはなかった。しかし、私個人的には、彼の良さ、魅力が存分に出るのはやはりモーツァルトの諸役ではないかと思う。「ドン・ジョヴァンニ」のタイトルロールやレポレッロ、「フィガロの結婚」の伯爵やフィガロ、どの役も時にコミカルに、時にシリアスに、また時にはセクシーにと抜群の存在感を示すことできる稀有な歌手であるから。
指揮は現在の音楽監督のポジションをリッカルド・ムーティから引き継いたズビン・メータで、1985年から20年以上に渡って長期政権を引いている。さすがにオケや合唱団との呼吸も良く合っており、かなりレヴェルの高い公演だった思う。演出は、世界的に有名なスペイン人映画監督のカルロス・サウラだったが、この「カルメン」は映画でも何度か取り上げている得意の作品。この舞台は、大きな仕切板が重なりあって、照明によって色が変化するもので、他には舞台上にセットもほとんど何も無く、いたってシンプルだが概ね好評だったようだ。一方、衣装は現代的なものではなく、わりとスタンダードな印象だった。
長かったイタリアレポートも今回で一応終了。
来週からは新しい展開を見せようと思っている。
ところで、男の隠れ家本誌の今月号(大人のクラシックPart2)のパリ国立オペラ総裁、モルティエ氏のインタビュー記事は必見!

幕間のステージ

テアトロ・コムナーレの天井
また、昨夜のボローニャの「ノルマ」と同じくカメラが入っており、それによって明らかにマイクで声を拾ってしまっていた。日本でもオーストリアでもアメリカでも劇場にカメラが入ることは幾らでもあるが、マイクを通した声を拾ってしまう傾向は、どうもイタリアだけのようがする。RAIの技術力の問題なのかマイクの問題なのか劇場の造りの問題なのかは不明だが、とても残念である。
タイトルロールはロシア人のメッツォ・ソプラノ、ユリア・ゲルツェヴァ。ここ数年カルメン歌いとして世界中を廻っているが、飛び抜けた強い声や他を圧倒する演技力を持っているわけではないが、恵まれた容姿と広い声域レンジを活かした総合力で勝負するニュータイプのカルメンと言えるだろう。冒頭は緊張からか硬さが見えたが、徐々にエンジンがかかっていった。今年10月のローザンヌ歌劇場の「カルメン」では、ドマシェンコとのダブル・キャストで来日する予定。ただし、主催者の表記は、ユリア・ゲルセワとなっている。
ドン・ホセは、アルゼンチン人テノールのマルセロ・アルヴァレス。1995年のベッリーニの「清教徒」でイタリアにデビューして以来、透明感の高い美声と強いアクートで、世界中で活躍を続けてきた。私も20年、30年に1人の逸材としてデビュー以来注目をしてきた。年に1、2回はロンドン、パリ、ウィーンなどで聞いているが、最近はマンリーコやカヴァラドッシなどスピント系の諸役を歌うようになり、他のテノールのように重いものをやることによって、美声を失わないかを心配していた。結論から言うとホセ役はとても良いと思う。彼のホセを聞いたのは初めてであったが、必要以上に声を太く当てようとはせず、しかし息の量を増やすことによって劇的な効果を挙げることに成功している感じだった(ちょっと専門的になってしまって申し訳ない!)。3幕4幕などは、立ち廻りも激しく、かなりの熱演、熱唱で、新しいアルヴァレスの魅力を見たような気がする。
ミカエラは、アルバニア人のソプラノ、インヴァ・ムーラ。日本でもお馴染みの美人ソプラノだが、可憐なミカエラ役は声も容姿も彼女に良く合っている。フィレンツェでも人気が高いようで、タイトルロールのゲルツェヴァよりも多い拍手をもらっていた。
エスカミーリョはイタリア人バスのイルデブランド・ダルカンジェロ。良く鳴る美声を持ち、容姿も良く演技も上手い正統派のバスで、エスカミーリョも決して悪くはなかった。しかし、私個人的には、彼の良さ、魅力が存分に出るのはやはりモーツァルトの諸役ではないかと思う。「ドン・ジョヴァンニ」のタイトルロールやレポレッロ、「フィガロの結婚」の伯爵やフィガロ、どの役も時にコミカルに、時にシリアスに、また時にはセクシーにと抜群の存在感を示すことできる稀有な歌手であるから。
指揮は現在の音楽監督のポジションをリッカルド・ムーティから引き継いたズビン・メータで、1985年から20年以上に渡って長期政権を引いている。さすがにオケや合唱団との呼吸も良く合っており、かなりレヴェルの高い公演だった思う。演出は、世界的に有名なスペイン人映画監督のカルロス・サウラだったが、この「カルメン」は映画でも何度か取り上げている得意の作品。この舞台は、大きな仕切板が重なりあって、照明によって色が変化するもので、他には舞台上にセットもほとんど何も無く、いたってシンプルだが概ね好評だったようだ。一方、衣装は現代的なものではなく、わりとスタンダードな印象だった。
長かったイタリアレポートも今回で一応終了。
来週からは新しい展開を見せようと思っている。
ところで、男の隠れ家本誌の今月号(大人のクラシックPart2)のパリ国立オペラ総裁、モルティエ氏のインタビュー記事は必見!

幕間のステージ

テアトロ・コムナーレの天井





