本・エンタメ

2008/05/23

イタリア・オペラ日記 第4回 ボローニャ

当夜の演目はベルカント・オペラの最高傑作、ベッリーニの「ノルマ」であった。しかも、この日は新演出の初日で、さらにはダニエレ・デッシーが遂にノルマ役にデビューするということで会場の空気は異常な熱気に包まれていた。というように特別な公演だったため、当然のことながら収録が行われ、RAI(イタリア国営放送)がライヴで流すために、数多くのカメラが舞台を取り囲み、幕が開いた。 

 最初に驚いたのは、冒頭にソロのあるオロヴェーゾ役のバス、ラファル・シヴェクの声。もの凄い鳴り方をしていて、異常なほどの声量なのである。そしてすぐに気が付いた。ああ、今日は収録が入っているのでマイクで拾っているのだ!と。立つ位置によって響きがぜんぜん違うので、かつらや衣装に仕掛けたマイクではなく、固定で何箇所かに置いていたのであろう。この劇場は何度も来ているが、このような経験は1度も無く、最初は戸惑ってしまったが、まあそのシチュエーションに応じて臨機応変に楽しむのも大切なこと。すぐに頭を切り替えることにした。万一あれがマイクの影響でなければ、シヴェクは、間違いなくあと20年間世界のトップに君臨するバスということになる。

 さてそんな中、デッシーが登場。私も常々からドラマティコな声を持ち、ppからffまで自在に使い分け、アジリタのテクニックも完璧なデッシーがなぜノルマをやらないのかと思っていた。しかし、ノーブルな彼女はこの超難役によって潰れていった多くの歌手を知っていたのであろう。ノルマといえばカラス、カラスといえばノルマとまで言われたマリア・カラスでさえノルマを何度もやったことによって歌手としての寿命を短くしてしまったと言われているほどである。
去年50歳になり、来年にはデビュー30周年を迎えるデッシーが何を決意したのであろうか?最近はやや不調が伝えられており、私も心配をしていたが、結果的には素晴らしいノルマであった。とても初めての役とは思えないほど歌いこんでいる感じで、彼女はだいぶ前から準備をしていたのであろう。

 そんなデッシーに大ハプニングがあった。世紀の名アリア「清らかな乙女」(カスタ・ディーヴァ)の前奏が始まったところで電話の呼び出し音が何度も鳴ったのである!前方右からで客席なのか舞台の袖なのかどこか分からないし、携帯電話か固定電話かも分からなかったが、シーンと静まり返ってアリアを待つ会場は一瞬にして凍りついた。デッシーに個人的な恨みがある人間か、オペラハウスそのものに恨みがあるのか、単なる愉快犯なのか。大音量という感じではなかったが、いずれにしても偶然であれほど抜群のタイミングはあり得ないであろう。しかしデッシーは動揺を見せることもなく、見事に歌い切った。

 相手役のポリオーネにはテノーレ・スピントのファビオ・アルミリアート。いつもに比べるとアクート(高音)がやや詰まり気味になって伸びを欠き、調子はあまり良くなかったようだ。しかし、そこは実力派テノールらしく、力で最後まで押し切った。もう1人の主役アダルジーザは当初ニーノ・スルグラーゼがアサインされていたが、ケート・アルドリッチに変更となった。決して悪くはないが、特別に良くもないという感じであろうか。
 
 指揮のエヴェリーノ・ピドはベルカント・オペラのスペシャリストらしく、手堅くそして効果的に舞台をまとめあげていた。職人的なとても良い指揮者だと思う。演出はフェデリーコ・ティエッツィで、訳の分からない前衛的な舞台を危惧していたが、シンプルで照明を上手く使ったなかなか美しい舞台だった。

 次週はイタリア編の最終回としてフィレンツェ5月音楽祭オープニング・オペラ「カルメン」の模様を。


テアトロ・コムナーレ外観


ホワイエ風景


カーテンコール風景





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