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2008/08/30

ディーバの囁き11  エブリシング・バット・ザ・ガールとベイビー・ザスターズ・シャイン・ブライト

エブリシング・バット・ザ・ガールはネオ・アコースティックのデュオとしてデビューしました。そのジャジーでシンプルなサウンド、トレイシー・ソーンの低く深みのあるボーカルは、グループとして成功を収めました。しかし、常に新しいことをしよう、変化していこうという二人の姿勢は、決して困難なものではなかったのです。今夜はそのうちでも、もっとも幸せなアルバムを聴きます。

Swing Out Sisterが変化せずに時代を過ごしてきたとすると、同じイギリス出身の男女のデュオでもEverything But The Girl(EBTG)は変化を目指して活躍してきたのではないか、と思います。

メンバーはBen WattとTracey Thornの二人。主にTraceyがボーカルを担当していますが、曲によってはBenも歌っています。けっこう渋い声で、Benのファンという女性もけっこういます。Benの好きな音楽には、T Rexなどが出てきます。Brian EnoやNeil Youngを聴き、やがてパンクロックに衝撃を受ける、そういう70年代を過ごしてきました。もちろん、この時代にパンクロックに影響を受けなかった若いミュージシャンはいないと思います。むしろ、パンクがあった後、そこで破壊された音楽シーンから、さまざまな新しい音楽が登場したと思うのです。それはまるで、消失した森林から新しい芽が出てくることに似ていたのかもしれません。それはテクノポップになり、ネオ・アコースティックになり、あるいはエレクトロ・ダンスミュージックになっていきました。SOSも含め、80年代前半にはこうした音楽が次々と登場した時代だったのです。

二人はチェリー・レッド・レコードから、『A Distant Shore』(Tracey)、『North Marine Drive』をリリースした後、レーベルの企画として結成し、デビューシングル「Night And Day」をリリースしました。この曲は、Billie Holidayのカバーで、これにTraceyとBenのそれぞれの曲を加えた3曲入りのシングルとなっていました。Traceyの低い音程のけだるいボーカルとBenのギターは、ジャジーでアコースティックな音として完成していました。そしてEBTGはグループとして活動を続けます。
チェリー・レッドの新しいレーベルと契約したEBTGは、シングル「Each And Everyone」、アルバム『Eden』を発表し、ヒットさせます。「Each And Everyone」のプロモーションビデオを見たことがありますが、ボーカルのTracey、ギターのBenにパーカッションを一人加え、三人が背中を向き合わせて静かに演奏しているというものでしたが、これが実にかっこいいんです。

そんなわけで、ぼくの中では、いまだにEBTGのベストといえば、『Eden』だと思うのです。そして、このネオ・アコースティック路線での成功から、いかに離れていくのかということが、彼らのテーマになっていったと思います。

セカンドアルバムの『Love Not Money』は前作の延長でありながら、アコースティックなロックという印象で、それはそれで悪くはありませんでした。シングルではB面にPretendersの「Kids」をカバーしていて、これがなかなか出来がいいのです。男の子が立小便をしているモノクロ写真のジャケットも、なかなかいい雰囲気だし。けれども、二人は新しい展開を求めていたのではないでしょうか。

今夜、聴こうと思っているのは、サードアルバムの『Baby, The Stars Shine Bright』です。タイトルは、嶽本のばらの「下妻物語」ですっかり有名になった、ロリータファッションのデザイナーズ・ブランドの名前にもなっています。EBTGとロリータというのは、どうにも結びつかないのですし、だからどうしたって思うのですが。

サードアルバムの特色は、バックにフル・オーケストラが使われているということ。1曲目の「Come On Home」から、ストリングス全開です。7曲目の「Sugar Finny」では、ホーンのアレンジがSOSの「Am I The Same Girl」そっくりで、何となく微笑んでしまいます。中には「Careless」のような、シンプルなアコースティックの演奏もあるのですが、基本的には全編、この調子で、これまでとは全く異なったアプローチのように聴こえます。
では、オーケストラの導入は、成功しているのでしょうか?
それはそれ、と思うのです。それは、結果論でしかないからです。

『Baby, The Stars Shine Bright』では、もう1つ、これまでのアルバムと大きな違いがあります。それは、ジャケットに本人たちの写真が使われているということです。正直なところ、ビジュアル的には、ちょっとイマイチの二人ではあるし、そのせいかどうか、これまでの2枚のアルバムには自分たちの姿はありませんでした。ですが、ここでは違います。
「ベイビー、星が明るいぜ」というタイトル、1曲目から「家においでよ」と言う。それは、これまでの2枚のアルバムと較べても、もっと明るいイメージがあるのです。

BenとTraceyの二人は、結婚し、音楽活動でも成功を手にしました。そうした明るさが、このアルバムにはあると思うし、それがジャケットを飾る二人の写真、その表情、歌に表れていると思うのです。そうした感情的な盛り上がりは、オーケストラにとてもよく合っていたとも思うのです。こうした時期の二人だからこそ、新しいことへの挑戦として、オーケストラの導入を考えたとしても、不思議ではありません。

本人たちは、変わっていないと当時話しています。確かにそうです。実は「Come On Home」は後に、アコースティックバージョンも出されていて、ファンにはそちらのほうが評判がいいようです。そうであってもなお、ぼくはこのアルバムを通じて、発表当時、幸せを分けてもらったような気がしていました。





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