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2008/06/21

ディーバの囁き5  エンヤとウォーターマーク

80年代後半に登場したエンヤは、シンプルなメロディと複雑なアレンジ、多重録音によるボーカルやインストによって、ポップミュージックのファンだけではなくプログレファンにも人気があります。それは、一人でゆっくりと聴きたい、そうした中で自分の存在を肯定してくれる、孤独にも耐えられるだけの力を与えてくれる、そんな音楽だと思うのです。

 よく、ジャケ買いと言いますが、ほんとうにジャケットだけを見てCDを買うことってありませんか? ぼくがEnyaの『Watermark』を買ったのも、当時はまだ渋谷のLoftの1階にWAVEというレコード屋があったときのことでした。油絵の中に清楚な女性アーティストがいる、物静かな赤を基調としたLPのジャケットを見て、そのままレジに運んでしまったのでした。

その音はというと、シンプルなメロディに乗せられた、多重録音の女性ボーカル、アコースティックともエレクトリックともつかない複雑で厚みのあるインストゥルメンタル。寂しいようでいてやさしいピアノの響き。英語だけではなく、ゲール語による歌。ヒーリング系の音楽と言われていますが、それは一人で聞くことができる、そういう音楽だからなのではないかと思うのです。つまり、曲のテーマは喫水線であり、アフリカの嵐であり、流浪の民であり、河である、という。アイルランドの荒涼とした風景の中、自然だけが存在する中で、一人で立っている、そんな雰囲気の音楽だということです。それはラブソングとは対極にある、むしろ孤独であるようで、逆説的だけれども孤独ではなく世界がそこに存在する、それはぼくたちが豊かな感性を持って感じ取ることができれば、限りなく美しいものである、そういう音楽だったと思うのです。

たとえ孤独であっても、世界の中に自分の生命力を見出すことができれば、自分は存在していける、そうした意味において、Enyaの音楽は、人を癒すことができるのだと思うのです。

Enyaのデビューは、BBCの「幻の民、ケルツ」という番組のサウンドトラックでした。彼女の兄や姉が結成したバンドClannadを離れ、Nicky Ryanと彼の妻のRoma Ryanとともに音楽活動を開始した頃でした。姉のMaire Brennanも後にソロ活動を開始し、いくつものアルバムをリリースしているのですが、写真を見ると、けっこうよく似た姉妹です。音はもっとバンドを意識したものなんですけどね。

さて、そのEnyaの最初のアルバムとなったサウンドトラック『Enya』(現在は『The Celts』というタイトルで販売されています)はすぐに渋谷のタワーレコードで手に入れ、この2枚のアルバムは本当によく聞いたものです。
当時は意識していなかったのですが、プログレファンの間では、けっこうEnyaが好きだという人も少なくありませんでした。今から考えてみれば、Clare Hamillが『Voices』で到達した地点が、Enyaにとってのスタート地点だったわけです。きめ細かく作りこまれた音に、敏感に反応した人は少なくなかったということです。






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