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2008/03/29

イエス・ミュージックの夜10  パトリック・モラーツとリレイヤー

『リレイヤー』というたった1枚のアルバムを残しただけでイエスを去ったパトリック・モラーツですが、一部のファンにとっては、リック・ウエイクマン以上の存在です。後にメンバーになるロシア人キーボードプレイヤーのイゴール・コロシェフもまた、好きなイエスのアルバムとして『リレイヤー』をあげています(彼は後に、そのアルバムの曲を演奏するという大役を追うことになりますが、それは別の機会に)。

 Patrick Morazというキーボードプレイヤーが参加したYesのスタジオ盤は1974年の『Relayer』ただ1枚しかありません。けれども、歴代のキーボードプレイヤーの中で、Patrickがベストだという人は少なくないようです。有名なところでは、英米文学の研究者で慶応義塾大学教授の巽孝之氏がいます。巽氏は著書『プログレッシブ・ロックの哲学』という本の中で、プログレのベストとして、いきなりこの『Relayer』と、それからPatrickがYesに参加する前のバンドRefugeeの『Refugee』を挙げているくらいなのですから。バッハのような風貌のスイス人のプレイヤーは、その「熱い」演奏をして、Yesファンの記憶に残っているのだと思います。

PatrickはRick Wakemanの後任としてYesに参加しました。実は最初にYesがスカウトしたのはVangelisでした。けれども断わられてしまい、Refugeeに在籍していたPatrickとなったわけです。
このRefugeeというバンド、実はThe NiceというバンドからKeith Emersonが脱退し、代わりにPatrickが加入してできたバンド、ということなのです。Keithの代役ならRickの代役も可能だろう、ということなのでしょうか。とはいえ、確かに高い水準の技術と攻撃的な演奏は、当時のYesには必要だったのかもしれません。そう、74年はKing Crimsonが『Red』を発表した年でもあるのです。おそらくこのときが、プログレッシブ・ロックがもっともアグレッシブになった時代だったのです。

『Relayer』においては、Patrickは音作りにおいてかなりリードをとっています。1曲目は20分を超える大作「The Gates Of Delirium」ですが、そもそものテーマは、Jon Andersonがトルストイの『戦争と平和』を読み、これをモチーフにしたということです。曲の構成は、前半で戦いの物語が始まり、中盤は各楽器のバトルが展開されます。そして最後は静かなJonの歌声によってエンディングを迎えます。この最後の部分が「Soon」というタイトルでシングルカットされました。とはいえ、やはりこの曲の圧倒的な迫力は、中盤のバトルです。各メンバーが一つの音楽を奏でているとはとても思えない、破壊的な演奏なのです。それぞれの楽器のリフは一致せず、演奏は急に変化するという具合なのですから。

2曲目の「Sound Chaser」でもそれは変わりません。スピードの速い演奏の中で、謎の男性の叫びが入ったりして、そのあたりもラテン音楽に傾倒していたPatrickのなせる業なんだろうなあ、などと思ったりします。
3曲目の「To Be Over」になってはじめて、静かな曲調になるのですが、この曲はなぜかあまり盛り上がらないまま終わってしまうので、ぼくとしては、好きなメロディがあるにもかかわらず、好きになれない曲なのですが。

『Fragile』以降のYesは、空間的な音作りをしてきました。それは隙間を生かしたものだったと思うのです。ところが、Patrickの参加によって音作りはむしろ、その空間すら密度の高いものにしてしまったのです。それは、Rick加入前の『The Yes Album』において平面的に密度が濃いということとは別ものです。どっしりとした重みのあるものなのです。
このアルバムでもう一つ、忘れてはいけないのが、ジャケットです。グレーのモノトーンですが、Rodger Deanがもっとも気に入ったYesのジャケットだということです。丁寧に描き込まれた、本当に美しいイラストです。そうであるにもかかわらず、鮮やかさが欠落しているともとれます。それは、Yesというバンドが、何か違う場所に来てしまった、そういうことを示しているのかもしれません。

スタジオ盤こそ1枚ですが、Patrick在籍時のYesはけっこう充実していて、1975年のライブはDVDとして発売されています。『Live 1975』というタイトルはあんまりですが、Rick時代の曲、とりわけ「Close To The Edge」や「Ritual」の破壊的な演奏がある一方、「Long Distance Runaround」はアコースティックバージョンになっていて、しかも「The Fish」ではなくPatrickのピアノソロにつながるという不思議な構成になっています。後半はNHKの「ヤングミュージックショー」で放映された、つまりぼくが始めてYesに接した、そういう映像でもあるのです。





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