イエス・ミュージックの夜5 ジョン・アンダーソンと究極
ジョン・アンダーソンと言えば、一人ウィーン少年合唱団とも言われるハイトーンヴォイスが魅力です。けれども、その方向性は、壮大な妄想力から、日常のささやかな愛へと変化し、何より人を音楽によって飛翔させようという、そういう性善説のポジティブさに変化していきます。その転換点となったのが、77年の『究極』でした。
Jon Andersonのソロアルバム、『In The City Of Angels』はぼくにとって、とりわけ思い出のあるCDです。というのも、ぼくの持っているCDはサンプル盤なのですが、当時、ちょっと好きだった女の子からもらったものだったからです。彼女はレコード会社で仕事をしていたのですが、ぼくがYesを好きだっていうことを知っていて、このCDをくれたんです。でも、このアルバムの話はまたあとで。
Jonを紹介するためのYesのアルバムとして、今回は『Going For The One』を取り上げたいと思います。このアルバムの邦題は『究極』というものです。いくらなんでも、このタイトルはあんまりだと思うのです。go forというのは何かを求めていくという意味で、まさにたった一つのことを追求していく、そういうタイトルなのですが、それが究極というのはどうかって思うのです。他にも「悟りの境地」とか、どうなの?って思うんですけれども。
というわけで、実は、そういうことがあって、このブログではアルバムや曲のタイトルはすべて英語で表記しているのです。
その『Going For The One』ですが、Yesにおいてもいくつめかの転換点となるアルバムです。1974年に前作『Relayer』を発表後、ツアーを経て各メンバーはソロアルバムの製作にとりかかります。バンドでの活動をちょっと休止したいということだったのでしょう。メンバーそれぞれのミュージシャンとしてのエゴを昇華させた上で、新作に取り組もうというわけです。再びツアーを行ったあと、当時のキーボードプレイヤーであるPatrick Morazの故郷であるスイスでレコーディングを開始するのですが、そのPatrickが早々にバンドを脱退し、Rick Wakemanが呼び戻されます。

また、セルフプロデュースとなり、ジャケットもHypnosisに変わっています。こうしてできたアルバムは、いわゆる暑苦しさとは無縁なクールでポップな作品になっています。
Jonについて言えば、直前に製作したソロアルバムは『Olias Of Sunhillow』というSF的なコンセプトアルバムで、とても美しいジャケットなのですけれども、ともかくこの作品をもってJonの壮大な妄想はひとまず行き着くところまで行き、残った部分が「Awaken」というナンバーに結実している、そう思います。このナンバーは無用に長すぎず、けれど人を飛翔させる、そういう曲ですし、それはJonが考える音楽の一つの結果だと思うのです。
そして、他方、シンプルで力強いメッセージを持つ「Going For The One」や多分に感傷的で幻想的な「Turn Of The Century」は、ポップミュージックとしてのYesのナンバーの傑作だと思います。本当に、このアルバムの冒頭、カウントに続いてSteve Howeのスティールギターの音が響き、まったく別のリズムを刻むChris Squireのベースが入った時点で、このバンドがまったく別の段階に達したと思うし、プログレッシブロックとポップミュージックの間で一つの到達点に達したと思うのです。
他にも聴き所はあります。Rickが奏でる教会のオルガンの音もそうです。再発盤のボーナストラックでは、RickのオルガンとJonのハープによるデュオ「Vevey」を聞くことができます。
Jonはこのアルバムを境に、壮大なテーマから日常的なテーマへと転換していきます。
そうそう、このアルバムには副産物もあります。一つはPatrickのソロアルバム『Out In The Sun』です。ぼくはこのアルバムが、彼のもっとも美しいソロアルバムだと思うのです。アグレッシブなプレイと優しさを持ったプレイが調和した作品です。彼がYesを脱退した理由は、ソロアーティストとしてのエゴが強かったからでしょう。それをバンドと両立できないということです。後に彼はThe Moody Bluesに参加しますが、そこでは極端に自己主張を抑えています。
もう一つは、Rick Wakemanの『Rick Wakeman’s Criminal Record』です。Yesのレコーディングの合間に作成されたため、Yesのメンバーも参加しての作品となりました。テーマは犯罪ですが、むしろ罪を犯す人間への優しさというものを表した、これも美しいアルバムです。
それから、Steveのアコースティックギターが心地よい「Turn Of The Century」ですが、Yesのトリビュートアルバムでは、Annie HaslamがSteve本人の演奏で歌っており、彼女のステージナンバーにもなっています。






