走れない場所はない!
トライアルレースってご存じですか。高さ10mもあるほぼ直角の崖をバイクで登ったり、沢登りや水に潜りながら川渡だってやります。
軽く取り回すことに重点設計されトライアル車は、とにかく軽い車体です。運転も立ったまま走ることが多いので、座るシートなんかは飾りみたいな簡単なモノです。エンジンは低回転でも馬力が出て、超ゆっくりも走れるエンジンです。
大自然の中を、自由自在に凸凹や倒木、岩場、川などの障害物があれば乗り越えて進むのがトライアルです。
競技はタイムを競うのではなく、一定のセクション間を、いかに足を地球に着かずに
バランスよくガレ場を走破できるかを競います。競技中にバランスを崩して片足を1回着くと1点、両足で3点、エンジンストップすると5点、などの簡単ルールで、イギリスがトライアルの発祥の地のようです。
日本でも30年前頃にはトライアルはかなり人気がありました。盛岡の山中を出発して太平洋側、一泊して違うコースで盛岡に戻る1泊2日のレースに数回参加しました。このコースは、宮沢賢治が命名した「イーハートーブ」の山々を越えて、リアス式海岸の陸中海岸を往復する、今もイーハートーブレースとして続いていて、トライアル好きには憧れのレースです。
レースでは普通の道は少ししか走りません。参加者は役員が設定した崖や沢を藪こぎをしつつ、途中のセクションで競技をしながら道なき道を進みます。道しるべとして直進、右折、左折のカードが木の枝や草の上に無造作に置いてあるだけで、このカードを見落とすと迷子になります。
3人一組で出発します。当時は200台以上のバイクが走り、通過する山中の村では広報スピーカーが前もって知らせるので、深山にポツンとある家でも、北国らしい赤いほっぺの子供達が集まって手を振ってくれました。
イーハートーブの熊が出るという人気のない山の中を走るのですが、通過する地にそれぞれ地権者がいます。勝手に走れないのでコース設定時に役員は通行許可をもらいに行きます。イーハートーブのレース名も、宮沢賢治の親族の方がいるので、使用許可をもらって使っているそうです。
ある年大きな台風が東北地方を通過しました。イーハートーブの森も木が倒れたり、山がくずれたりで道は寸断される被害があり、その直後にイーハートーブのレースがありました。スタート前にコースを試走してきた役員が「今年は何人が無事に帰れるかな」とニヤニヤしているのです。
内緒で聞いた話だと台風で大水が出て、セクションにした沢の大岩が流され動いて、その沢は通行不能状態となり、トライアル車でも通過はできないだろうと役員は喜ん
でいたのです。通行不能の沢がどこかわからず、大岩ゴロゴロの何本かの沢を登ったり下ったりしてゴールには無事にたどり着きました。「大失敗だったよ」と笑いながらの役員の話しでは、岩が重なって通行不能の沢を村人が見て、これじゃバイクが走れないだろうと、朝早くから村総出の人海戦術で岩を動かしてバイクの通り道を造ってくれたのです。
走れない場所を無理にでも駆け抜けるのがトライアルです。台風で動いた岩もそれなりに通過するのが競技です。でもこれじゃバイクが通るのは危ないからと、村人は総出で岩を動かして参加者全員が通れる道を、親切にも総出で造ってくれました。
でもこれって小さな親切、大きな迷惑って言うですよね。





